ストック1

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私には、周囲の人たちが影絵のように見える

ある日、世界が一変した
よく晴れた昼間でも景色は暗く、まるで閉め切った部屋で、小さなろうそくを灯したかのようだ
そして、私の目に映る人たちは、まるで影絵のような黒いシルエットになっていた
これは私にだけ起きている現象のようで、他の人たちは普段と変わらず過ごしている
幸い、影絵の状態でも、不思議と相手が誰なのかはわかるので、まったく困らない
初対面の相手や、知らない相手でも、判別はできる
特に生活に支障はないから、このままでもいいかと考えていたのだが……

「君は心を閉ざしきってるね
だから景色が暗くて、周りの人がシルエットに見えるんだよ
たまに心を閉ざした人が、突然、目の前が闇になることがあるんだよね
真っ暗闇じゃないのは、君自身に対しては、ある程度心を開いてるからかな」

動物の妖精、としか言えないような姿のなにかが、私の前に現れ、そんな事を言ってきた
確かに、妖精の言う通り、私は心を開くような、親しみを感じられる相手はいない
他人を信用することもない
だが、そのことに苦痛を感じてはいないので、改める考えは皆無だ

「君はまるで心を失ってるかのようだね
何に対しても動じない
何に対しても喜ばない
怒らない、悲しまない、慈しまない
でも、そのわりに自分自身を楽しんでる」

その通り
他人で心は動かないが、自分の一挙手一投足は、そこそこ楽しんでいる
自分にしか興味のない人間が私だ
それだって、ナルシストというほど強くない

「ま、人の価値観なんてそれぞれだし、それが悪いことだとは言わないよ
ただ、君はこのままだと、絶対に幸せになれないよ?」

そうだろうな
元々幸せにも興味がないけれど

「かと言って幸せが嫌いなわけでもないでしょ?
なら、ちょっと暇つぶしに幸せになってみない?」

私にはどうでもいい話だが、どうでもよかったので、話にのることにした
妖精によると、これから私と、ある人物を出会わせるらしい
その人物と長く過ごしていれば、幸せな人生が送れるのだという

「僕は人を幸せにすると点数が貰えるんだ
君の幸せな人生を願ってるよ」

そう言うと、妖精は姿を消した
しばらくして、私は道端で震える、影絵の小さなシルエットが目についた
子供だ
訳ありだろう
今は大丈夫だろうが、放っておくとそのうち何かの拍子に死んでしまいそうだった
帰る場所もなさそうだ
私は顔もわからない子供を住処へ連れていき、事情を聞いた後、息子として育てることになった
そして……


私の周りの景色は、時折眩しく思うほどに明るくなっていた
今では人も影絵ではなく、はっきりと姿が見える
息子の顔を初めて見た時は、あまりにも嬉しくて、涙を流した
息子は困惑していたけれど
その後も色々なことがあったな
成長を見守るのは楽しかった
息子の結婚や、孫の誕生も経験した
間違いなく、私の人生は幸せだ
私に心を開く機会をくれたあの妖精には、感謝してもしきれない
今も、命の旅立ちを迎える私の周りには、息子と義理の娘、孫たち、そして、私が出会った人たちが集まっている
みんな、ありがとう
私は、自分の人生に満足だ


「幸せになれたんだね
僕も、点数がもらえて幸せだよ
さあ、行こう
君の人生は終わったけど、まだその先がある
今はちょっと寂しいかも知れないけど、きっと君も喜ぶと思うよ」

みんなと会えなくなるのは、そうだな、寂しい
しかし、わかっていたことだ
覚悟はできていたよ

「そうだね
君に、未練はなさそうだ
さあ、あれを見て
君の次の行き先はあそこだよ」

あぁ
確かに、これは喜ばしい
今からワクワクしてきたよ
私の行き先は、退屈しなさそうだ

4/19/2025, 11:40:15 AM