静寂の中心にはきっと、深い穴がぽっかりと空いている、と思った。
透明な、公衆電話のボックスの中で、田舎の静寂に耳を傾けている。
今どき、非通知設定の電話番号なんて、企業の固定電話ですら相手にしない。
べたりと張り付いたシャツの水滴を、上辺だけ拭き取る。
周りに溶け込むような半透明の電話ボックスの壁を、雨粒が叩き、撫でて、滑り落ちていく。
雨の音と、風の唸りと、虫の声。
わんわんと喚く静寂の中心の電話ボックスの中では、静寂がどこか僅かに遠く聞こえる。
この片田舎に、次のバスはいつ来るのだろう。
静寂の中心で、穴にすっぽりとハマってしまった。
張り付いたシャツが、私の呼吸に合わせて、微かに波打つ。
静寂の中心で、私は何かを待っている。
静寂の中心には、ぽっかりと深い穴が空いている。
静寂が、穴の外でわんわんわなないている。
電話ボックスの中で、私は冷たく濡れた秋雨が止むのを待っている。
10/7/2025, 3:02:33 PM