「好きですっ、付き合ってください!」
振り絞った僕の言葉に、軽く頷いて笑ってみせた彼女ーー早川美波と僕が迎える、一度目の夏だった。
「それで、河野くんは夏休みの予定あるの?」
「いや、特には。早川さんは?」
「あたしもー。そだ、一緒に夏祭り行かない?」
「あのーー僕はいいけど、早川さんって花火嫌いじゃ?」
僕の言葉に早川さんははにかんで、それから「まぁね」と答えた。
そうして迎えた夏祭り。早川さんは浴衣姿が美しかった。簪を挿したお団子だから、うなじが見えてどこが淫靡でさえあった。
「ほら、河野くん!綿あめ買いに行こっ」
彼女の方から手を繋いで、あれやこれやと引っ張られて連れ回される。リードも何もないけれど、天真爛漫な早川さんが可愛かった。
「はい、嬢ちゃん。ガム一個ね」
祭りが始まってから30分は経っただろうか。早川さんと射的をしていれば、僕の予想に反して5発中2発も当てた。どうだと自慢げの早川さんに、僕は素直に称賛の言葉を伝えた。店主が僕らを微笑ましげに見ていた。
そして、最後に僕に花火を見た。土手に座り込んだまま空を見上げ、五月蝿いからと耳を塞ぐ早川さんの口を塞いだ。
驚いた様子の早川さんだったけれど、すぐに積極的にキスを返してくれた。
つぅと糸が引いて、僕は少し赤らんだ早川さんの顔をまじまじと見る。
「早川さんーーいや、美波さん、好きだよ」
美波さんの返事も待たずにがばっと抱きしめると、耳元で柔らかく「私も瑞貴くんが大好きだよ」と言ってくれた。
あの夏祭りから1ヶ月が経ったころ、僕らは別れる羽目となった。どうやら僕に問題があったらしい。美波は教えてくれなかったけれど、なんとなく判った。
絶望している僕の元へ、怪しげな商人が来た。なんでも、何回でも使えるタイムマシーンがあるのだとか。値段は高かったが、やり直してから返すと言えば承諾してくれた。
そうして、僕と美波の迎える2度目の夏が来た。
同じ日々を繰り返す。僕は美波に振られ続け、やり直しを繰り返す。いつだって美波は僕のどこが悪いのかを教えてくれない。気持ちは決まって夏祭りの一月後だった。
僕がどれだけ美波の好みを知り尽くして、してほしいことを先回りできても、美波には届かない。
これでもう、何度目の夏だろう?1000を超えてから数えることをやめた。
今日は美波に振られる日だ。いつも通りGPSを確認して、それからメッセージも見る。ちゃんと真っ直ぐ来てくれているようだった。何回と同じことを繰り返しても不安で仕方がない。
漸く姿を現した美波は、好きになった頃とは違って窶れていた。それが余計に好きだった。
「ごめん……いきなり話したいことがあるなんて」
これも一語一句違わず聞き続けた台詞。僕は笑って「そこのカフェで聞いていい?」と指し示した。
美波は下を向いて、それから小さく頷いた。別れると判っているけれど、まだ美波は僕の彼女だ。だから、ぎゅっと腰を抱き寄せ、僕に寄りかからせる。このぬくもりを失いたくない。
「それで、話って?」
「そのーー別れてほしいの」
「ん、いいよ」
僕があっさりと認めると、美波は一気に顔をあげた。その顔には嬉しさというより疑念が渦巻いているように見える。
「え、そんなあっさりーー?」
美波が驚くのも無理はなかった。確かに1度目の頃は泣いて、縋って、何でもするからと繰り返していたし。
「まぁ、美波の選んだことだから。でも、理由だけ教えてくれない?」
どうせ駄目だろうと諦めつつ訊いてみると、なるほど。初めて理由が判った。
「だって、瑞貴……重いから……」
「重い?」
酔狂な声が出た。重くなんてないと思っていたから。詳しく問えば、スマホのGPS共有、予定カレンダーの共有、誰と何をどの程度話したかの共有あたりが該当するらしい。
僕は「ありがとう」と言って、席を立った。勘定を済ませて、例のマシーンに乗り込む。今度はもっと前ーー美波が小学生の時に戻ろう。そこで僕は美波に正しい愛を教えなくては。
それから、そこに戻れば投資で借金もチャラになるだろうし。
待っててね、美波。僕が報われて、2人で幸せになれる日はすぐそこだよ。
1/23/2026, 8:35:48 AM