渚雅

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(Chu ♡)

耳元で軽いリップ音が鼓膜を揺らす。触れた熱は一瞬で離れて、微かに残る感覚と鼻腔をくすぐる香りだけが これまで幾度も繰り返された行為が現実であると訴えていた。

そう。それは幾度も繰り返された行為。感謝と親愛を伝えるためだけの特別ではない行動。


「ありがと、遥。大好き」
「どういたしまして。何度も言うけど、ここは日本だから」

本当に何度このやり取りを繰り返したことであろうか。いい加減慣れてきて表情と声色だけは平然を装っているが、内心は未だにどぎまぎしていて鼓動も通常の比ではない。

目の前のこいつは帰国子女であり感情表現の基準がそちらによっている。嬉しければ抱きついて、感激すれば抱きしめて、感謝すれば頬に口付けをする。そういう生き物である。

それが悪いとは言わない。言わないけれどまぁ 心臓には悪いし嫉妬もする。それがどんなに無意味な感情だとわかっていても 心はコントロールできないから。


「そんな簡単に触れちゃダメだよ」



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(Chu ♡)

感激したふりをして口元すれすれに唇を触れさせる。こういう時帰国子女だという自分の経歴に感謝する。けれど、


「ありがと、遥。大好き」
「どういたしまして。何度も言うけど、ここは日本だから」
(君以外にはしてないのにな)

帰国子女が誰彼構わずスキンシップするみたいな勘違いが起きていることだけは不満だ。だいたい親愛のキスは頬か額にしかしないし、基本は家族にしかしないものなのに。


「そんな簡単に触れちゃダメだよ」だなんて。
(君は酷い人だね)



テーマ : «Kiss »

2/4/2024, 11:42:11 AM