「月島」
背後からかけられた声に、一瞬だけびくついた体を隠すように返事をする。
俺の姿を見つけて走ってきたのか、その額にはうっすらと汗の粒が浮かんでいた。
「この間のことなんだが」
心なしか強張った声で鯉登さんが言葉を繋げる。少し俯きがちになる俺の顔を覗き込むようにする顔や、心配を多大に含む声には、隠しきれないほどの甘さが孕まれていた。
その甘やかさに背筋を電流が駆け抜けて、それと同時に気づかなかった己の鈍さに驚く。
その甘さを心地いいと思う自分にも。
「はい」
声が震えたことに、鯉登さんは気づいただろうか。
「返事は、決まったか?」
答えは、まだ、なんて喉の奥に用意しておいた言葉は飲み込んで、鯉登さんの瞳を見つめる。
誤魔化せないくらい、俺の心は鯉登さんを愛していた。
答えは、まだ
ゴールデンカムイより鯉月です。
9/16/2025, 1:02:00 PM