『夏』
ふと鉛筆を走らせる手を止めて外を見た。
縁側の向こうに見える田んぼの畦道を見知ったおじさんが自転車で通り抜けていく。
夕日が当たる田んぼにはいつの間に作業を終えたのか、誰もいなくなっていた。
冷蔵庫を開けて昨日から冷やしておいた2ℓのサイダーを取り出す。
ペットボトルのキャップを捻ると、パキッという心地よい音が鳴り、炭酸が抜ける。
食器棚からガラス製のコップを出して、その中に氷を入れる。
コップが充分に冷えたところでサイダーをそそぐ。
しゅわしゅわと音を立てながらコップが透明な液体で満たされていく。
一杯分のサイダーを注ぎ終えたところでペットボトルの蓋を閉め、冷蔵庫にしまう。
机に戻ってしばらく経つと、コップは汗をかき始める。
いくつもの小さな泡が下から上にのぼっていく。
涼しげなその光景を見ているだけで体温が数度下がった気がした。
キンキンに冷やされたサイダーは口に含むとぱちぱちと弾け、舌の上に軽い、爽やかな痛みをもたらした。
その痛みが癖になり、一口、もう一口とサイダーを飲む。
満杯にあったサイダーは、いつのまにか半分以下にまで減っていた。
扇風機の作動音、サイダーの泡の粒が弾ける音、氷が溶けてコップにぶつかる音、外から聞こえる蝉の声…。
様々な音に包まれながら再び鉛筆を走らせる。
溜まりに溜まった宿題は果たして今日中に終わるだろうか。若干焦りを感じて冷や汗が頬を伝う。
まるで嘲笑うかのように氷がカランと音を立てた。
6/29/2024, 5:07:04 AM