長い間ご愛好いただき誠にありがとうございました
近所の洋菓子屋さんが閉店した。
おじいちゃんおばあちゃんの2人でやっているお店だった。
初めて行ったのは幼稚園の頃。祖父に手を引かれて、ベビーシューを買いに行った。ベビーシューは小さな私にはぴったりな大きさだった。
次に思い出すのは小学生の頃。そのお店は同級生のおうちで、お店のおじいちゃんおばあちゃんは、同級生のおじいちゃんとおばあちゃんだったのだ。近所だから一緒に遊ぶことが多くて、そのお店から同級生が出てきたときはとてもびっくりした。
歯が抜けて永久歯が生えてくるようになると、私は歯医者を嫌がった。今考えれば虫歯じゃなくて定期検診なんだから、全然痛くないんだけど、音が嫌だった。行きたくないと駄々をこねる私に、お母さんはその洋菓子屋さんに連れて行ってくれた。ご褒美には歯が変な感じでも食べられるプリン。昔ながらの、ほろ苦いカラメルと固いプリンは、とても大好きだった。プリンのためなら歯医者もちょっと頑張れた。
中学生になると、部活が忙しくなってあまり行かなくなった。それでもたまに家族が買ってきてくれたベビーシューが冷蔵庫に入っていることがあった。部活で疲れた私には1口サイズがちょうど良すぎて、たくさん食べすぎてよく怒られた。
社会人。
一旦地元を出たものの、祖父母の介護のために地元に帰ってきた。思い出すのはあのベビーシューとプリン。食が細くなってしまった祖父母に、私はベビーシューならいいのではと思い、数年ぶりに洋菓子屋さんへ足を運ぶ。私には固いプリン。どこもかしこもなめらかで口溶けの良いプリンだけど、私は卵たまごした固いプリンが食べたかった。
変わらないお店の場所。ショーケースに並んだ商品も同じ。店員さんもおじいちゃんとおばあちゃんだけ。何も変わらないんだけど。
「プリン1つと、ベビーシュー1つでいくらだ?」
あぁ、同級生のおじいちゃんとおばあちゃんだから、私の祖父母とそんなに変わらない年齢なんだ。客である私に値段の計算を求める姿を見て、当たり前の事実に気がつく。
それからの私は足しげく通った。値札と違う金額を言う2人とそれを訂正する私、お店の隅に置かれるようになったシルバーカー、どれも自分の祖父母を見ているようで辛かった。でもベビーシューもプリンも味は変わらなかった。とても美味しかった。
そして今日。
閉店の貼り紙を見て、呆然と立ちつくす私。
最後にプリン、もう1回食べたかったな。
#突然の別れ
5/20/2023, 4:52:13 AM