「すれ違い」
彼と同棲して1年、彼の私への愛は薄れていった。以前とは明らかに違う態度の彼に、私はもう愛されていないのだと感じる。
ある日、彼は婚約指輪を忘れていった。彼は夜遅くに上機嫌で帰ってきて、家にある指輪を見てから、
「あぁ、忘れてた」
それだけ言った。嘘くさくて、悲しかった。彼はきっと、他の女ができたのだ。きっとその女と上手くいって、私はやがて振られる。彼に振られる想像をするだけで胸が苦しかった。私から振ろう。そう決心した。その方がきっと苦しまずに済む。私と別れた後の彼が何をしていても、気にしないで済む。
きっと。
彼女と同棲して1年、彼女とは上手くいっている。同棲したての頃は、気を使ってしまって、正直家での居心地が悪かった。しかし、最近ではだいぶ素で過ごせるようになった。素を出しても、会社で帰りが遅くなっても、嫌な顔ひとつしない彼女に惚れていくばかりだ。
彼女の待つ家が待ち遠しい。今日は婚約指輪を忘れてきてしまったせいで、左手が落ち着かなかった。もし彼女に知られてしまって悲しませたくないと思い、彼女に連絡することはやめておいた。彼女が指輪を見つけていないことを願う。
玄関を開ける。彼女が出迎えてくれて、思わず笑顔で彼女に抱きついてしまった。彼女も抱きしめてくれる。その行動で愛を感じる。机に置いてある婚約指輪を発見した。こんな所に忘れてきてしまったんだ、彼女も見てしまっただろう。ただ、もしかしたら見ていないことを祈って、最低限のリアクションで指に戻した。
夕飯を食べて、テレビを見ていた。彼女に突然、テレビを切られる。驚いて、
「どうしたんだ?」
と問いかける。
「ずっと、言おうと思ってたの。私たち、別れましょう。」
あまりに急なことだった。理解に時間がかかった。その後に悲しみが押し寄せてきて、俺は何も言えなくなった。
「あなたの事が嫌になりました。私はあなたを愛していません。」
彼女は涙ながらに続けた。そうか、泣くほど我慢していたんだ。俺は彼女が好きだった。だからこそ、彼女の気持ちを尊重したかった。
「分かった。」
震える声でそう言った。涙は流さなかった。彼女が泣くほど耐えたのに、俺が泣くのは筋違いだと思った。全て俺が悪いんだ。
彼と同棲して1年。彼が他の人を好きになったので、私は邪魔だと思い、別れました。
彼女と同棲して1年。俺に愛想を尽かせた彼女に別れを告げられ、別れました。
10/19/2024, 11:17:40 AM