木蓮

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彼女はいつも綺麗だった。彼女の周りにはいつも人が集まっていた。その真ん中で誰よりよく笑うのが彼女だった。いつも楽しそうだった。教室の片隅で空ばかり見ている私とは違う生き物だと思っていた。
あの日、特に理由はなかったがいつもより早くに教室に着いた。しんとした教室で、彼女は独り空を見ていた。足音に気付いて振り返った彼女はすぐにいつもの笑顔を見せた。目が赤くなっていることに気付かないわけはなかった。
「……バレた?みんなには内緒ね」
いたずらっぽくまた笑った。私は何も答えられなかった。どうしたの、なんて聞けるほどの距離じゃない。ただ頷くのが精一杯で、席に着いた。
「聞かないの?」
彼女は私の隣の席に座った。正解が分からずに曖昧に首を傾げた。
「私ね、好きな人がいるの」
聞いてもいないのに彼女は一方的に話し始めた。好きな人がいるけれど、その人に気持ちを告げるわけにはいかない。そんなことをつらつらと語っていた。
廊下から生徒の声が近づいて来て、ようやく彼女は話を切り上げた。
「私、あなたの事好きよ」
いつもの笑顔を残し、自分の席に帰っていった。
それから、時々人のいない教室で彼女は私に秘密の話をするようになった。私はいつも相槌を打つだけだったが、彼女の話は嫌いじゃなかった。
彼女が死んだのは突然だった。いや、本当は気付いていた。彼女の秘密の話はSOSだったと。本当は騒がしいのは苦手で、独りで本を読むのが好きで、男性を好きにはなれなくて。周囲のイメージに合わせて完璧な自分を作り上げてきた彼女は疲れていた。彼女は話し終えると決まって「つまらない話ばっかりでごめんね、ありがとう」とまた完璧な笑顔を見せた。

12/8/2023, 10:32:05 PM