小さな世界へ

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 話は終わらない。そう感じずにはいられない出来事があった。一ヶ月前、ちょうど二本の時計の針が真上に重なった時だ。昼休憩で外に行く人やまだ仕事中の人もいる中、俺は買ってきていたパンを食べていた。
「あ、この前はごめんね」
「いえ、とんでもない。是非また行きましょう」
 事業所内では比較的仲のいい二人が会話をしていた。先に言っておくとこの二人の会話が長いという訳ではない。彼らの話はこれで終わりだ。次に移る。
「あのやり方ありえなくないですか? 下の人たちの人のこと歯車かなんかだと思っているんですかね。上の人たちだけでやればいいじゃん。俺たちいるか?」
 この人も愚痴話は多いが、仕事は早い。愚痴を聞いている同僚は頷くこともあれば宥めるような返しをしながら聞いている。まあ、彼らも話は長いが、彼らでもない。風通しがいい所でいつまで話せる内容でもないからね。次だ。
「これ見てくれ。やばくね?」
「ずるいっスよ、それは。反則です」
「まさかだと思ったね」
 スマホを見ながらゲームの話をしている。仕事中でもゲームの話をしている時があるからそれはどうにかした方がいい、自分も混ざって話すことがあるからこれは反省ものではあるのだけど、これも違う。
「あの人、主任でもないのに仕切ってばっかりでなんなんって感じじゃない? この間も……」
 そう、この人。正確にはこの人たちだが。女性陣の集まりは誰かがそこからいなくなるとその人の悪口を言いまくる。同調のみで否定はしない。きっと自分もいない所で悪口言われているんだろうなぁと感じられずにはいられない。鈍間で半人前の俺は言われても仕方ないのだろうけど、事実でも言われるのは悲しい。彼女らの話は仕事が終わるまで続くのだ。だが、この日だけは仕事が終わっても悪口は終わらず、ここでストレス発散していこうと頑張っていた。仕事が終わらずどうにかしようとしていた自分には耐え難いほどの苦痛だった。それは本当に一秒一秒が長く感じられたのだった。

5/29/2024, 1:51:56 PM