小絲さなこ

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「誰かに食べられちゃう前に」


触れたくて、触れたくて仕方ない。
だけど、一度触れてしまったら、きっと、もっともっと触れたくなってしまう。
もしかしたら、壊してしまうくらいに。

壊したくない。
だったら、触れなければ良い。

そう、思ってしまったんだ。


「……うん、言い分はわかった」
「わかってくれるか!」
「頭ではわかったけど、感情的にはわかりたくない、かな」
「お、おう……」

付き合い始めてから半年経っても手を出さない俺にしびれを切らした彼女が「なんで何もしてこないのよ。私に魅力が無いってこと?」「それとも本当は私のこと好きじゃないの?」と半泣きで迫ってきた。


感情を言語化するのは難しい。
だけど、俺なりに精一杯頑張って言葉にしてみたのだ。
だが、彼女にはイマイチだったらしい。


「と、とにかく!女としての魅力がないとか、そういうんじゃないから!」
「そう」
「そうなの!」
「だったら……くらい、してよ」
「……いや、だからそれは……俺の話聞いてた?」
「聞いてたよ。でも、でもさぁ……好きなものは先に食べなきゃ誰かに食べられちゃうじゃん」

そういやこいつ、好きなものは先に食べる派だったな。
俺は最後まで取っておくタイプだから、分かり合えないのかもしれない。


「だから、ねぇ……私からしても、いいよね」
「いや、だから、話聞いてた?」
「黙って。目を閉じて……」
彼女はそう言って俺の顎に手をかけ────



────大事にしたい

9/20/2024, 4:27:07 PM