森川俊也

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人生で初めての演劇。
初心者なのにも関わらず、主演を演じることになった。
劇自体は嫌いではなかったし、自分でない誰かを演じることは好きだ。
劇をするにあたって、演じる人の行動と心理を書き出して、その人の一生を作ってみた。
たった十五分前後の劇だけど、それをすることでより良い物が作れるならそれで良かった。
何度も自分で書いたものを読んで、読んで、読み込んで、普段の日常生活でも演じた。
それだけなら、よかったんだろう。ただの熱心な人だから。
だが、それを全員に強要してしまった。
こうするのが普通。こうしないといけない。
こうしない意味が分からない。
そんな文言をこれぞとばかりに並び立て、誰にも反論する隙を与えないまま、自身の理想論だけを語り続けた。
その結果得たのは全員の顔に映る冷めた目と、自分の中に残る空虚感だけだった。
それでも、それを忘れるためだけに劇に没頭した。
リハーサルはとてもうまくいった。
それでも納得していなかったから、さらに突き詰めた。
そして、最高のコンディションの当日。
劇はセミの鳴き声から始まった。
セミがなく初夏の頃。
雲一つない青空で、見失った夢を見つける。
そんな物語。
だけど、その物語を演じられなかった。
納得がいかないんじゃない。
ただただ本当に劇がグダってしまった。
このために頑張ってきた。
誰よりも頑張ってきた。
それでも、本番当日。
皆の顔が脳裏によぎった。
理想論を語ったあの日。
皆がした冷めた目を。
あんなに好きだった劇が、今はもう嫌いだ。
自分のせいで潰してしまったから。
初夏、セミが鳴いている。
それでも、物語のように失った夢を見つけることは出来ない。
今も、これから先も。

11/9/2024, 10:15:39 AM