「何で泣くの?」
君は、そう言った。
私が貸した、小説が原作の恋愛漫画。その中の、ヒロインの彼氏に、負けヒロインが告白して振られて泣いてしまう、というシーンを見ながら言った。
「え、そりゃそうじゃない?」
「なんで?わけわからんのだけど」
君は少し早口に言う。
「だって、もうこいつには彼女っていう何よりも大切な人がいるわけだろ?他の女に言い寄られたからって、断るのは至極当然のことであって、振られるって分かりきってるんだから、泣かなくていいだろ。泣き落としかなんかか?泣いて相手の親切心を利用しようとしてんのか?」
それを聞いて、全くこいつはおかしな奴だなと思う。
「では、君のその主張を、ある例をもってしてへし折ってあげよう」
「急に何だお前」
「いいですか?では、私に彼氏がいたとしましょう」
「なわけねぇだろ。お前の彼氏は俺だろうが」
「ただの例だから!ちょっと黙って聞いて」
人の話を聞かない野郎だ全く。
「はい、私に別の彼氏がいたとしますよ?で、あんたは私を大好きです」
黙って聞いているのを確認しながら、話を続ける。
「私のことが大好きなあんたは、私に彼氏がいても、大好きな気持ちは変わりません。なのでいっそのこと告白しちゃおうと思いました」
「いや俺はそんなこと…「黙って」」
何か言おうとしたがそれを止める。
「でも、私には大事な誰かさんがいるので、もちろんあんたを振りました。はい、その時の気持ちは?」
「泣く」
「そゆことよ」
「なるほどね理解」
君はまた漫画に目を落とす。
そんな君に、一言。
「あんた以外に、いらないからね」
ばっとあげた君の顔が、漫画のヒロインみたいに真っ赤に染まっていた。
8/20/2025, 4:26:00 AM