『真昼の夢』
夢を見ていた。
わたしは彼女の横を歩いていた。
桜が咲いた川辺を、ゆっくりと、何も言わずに。
いつのまにかわたしは、彼女の手を握っていた。彼女は何の反応も示さない。ただじっと、前の一点のみを見つめている。
わたしのことさえも見えていないように。
夢だとわかっていた。
彼女が、こんな近くにいるはずがないのだから。
だから腕をつかんで、引き寄せた。
されるがままに、彼女はわたしにもたれかかった。マネキンのように、手応えはまるでなかった。
プラスチックの頬に唇をつけた。
誰のものでもない耳にひと言、ささやいた。
この瞬間だけ、彼女はわたしのものになった。
わたしは自身がケモノと化す前に、彼女から手を離した。スーツのポケットのなかで、スマホが着信音に震えていた。
目を開けると、そこはいつもの道の上だった。
ランドセルを背負った子どもたちが、午前授業の開放感を全身で表しながら追い越していく。
こんな真っ昼間に、道の真ん中で、わたしは幻覚でも見ていたのか。
わたしは歩きだす。夢の中の彼女と同じように、ただ前一点のみを見つめて。
わたしより頭ひとつぶん背の低い彼女を、探してしまわないように。
7/16/2025, 11:47:03 AM