神様が舞い降りてきて、こう言った(幸せの原点)
―――私は度々下界に降りて人間の情報を収集する。
天界で転生の準備に勤しむ傍ら、たまに息抜きを兼ねて下界の社会に紛れ込み、その生活を垣間見るのだ。
暮らしに溶け込むのは容易で(単に人間には私の姿は見えないだけなのだが)、歩いていても何ら支障が出ることはなく、全て滞りなく収集は行われた。
たまに、極稀に私の姿が見える相手と出会うことがある。
物珍しさもあって願いをひとつ叶えてやろう、などと口走ったら最後、皆口を揃えて
「お金!」
「お金!」
「お金が欲しい!」
と連呼した。
オブラートに包む・包まないの差はあったものの、見える誰しもがそう私に億万長者の夢を請うた。
この世界で楽に暮らし、楽に生きる。
余りある富、その欲望が人を動かす糧となるらしい。
―――皆、かつては私が天界で転生させた子供達。
欲望など微塵もなく、幸せになる!と滑り台を降りていった小さなあの姿は、………跡形もなくどこかへ消え失せていた。
失望とまでは言わないが、心が重い。
私は今回は早々に収集を終え、天界に帰る準備を始めた。暫くは降りるのを控えよう―――と思いながら。
「あ」
ドン、と何かにぶつかる。
見えないはずの私は万物をすり抜けるのに、一体何が当たったのかと見遣ると、幼い子供が弾みで道路に倒れ込んでいた。
しまった、見える側かと私は慌てて近寄るとその子に手を伸ばす。
「すまない。大丈夫か?」
「痛い………けど、平気。強い子だから泣かないよ」
そうか。偉いな。―――私はその小さい彼に微笑んだ。
「おじさん何か変。僕以外の人はみんなおじさんと当たらなくない?」
「私は人じゃないからね」
「え、人じゃないの? ユーレイ?」
「………まあそんなところかな」
「ふーん」
………ふと。気紛れに私は聞いてみる。
「これも何かの縁だろう。ひとつ願いを叶えよう、と言ったら君は何を望む?」
「望む? んーと、」
―――幼い彼はほんの少し悩んだ後、
「この怪我治して?」
と先程転んで擦りむいた箇所を指差した。
私は分かった、と指を翳してその傷をいとも簡単に治癒してみせる。
その処置にほぉー、と感心して目を輝かせた彼は、私に満面の笑顔で
「ありがとう!」
―――と礼を言った。
それは天界でいくつも目にした、可愛い私の子供達の笑顔そのものだった。
願いを叶えて走り去って行く後ろ姿を、私は黙って見送る。
………それを終えると私は静かに姿を消した。
―――滑り台を経て、転生した私のかけがえのない子供達。
多くの試練と困難を乗り越え、どうか満たされてまたここへ還ってきてほしい。
全ての子供達の魂に。
たくさんの幸福と、輝きを。
END.
7/28/2024, 1:32:06 AM