Largo giocoso

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『ベルの音』



「今夜は冷えるね。」
なんの日でもない今日、シャンシャンと鳴り響く音と共にその人はやって来た。

僕は目を疑った。

真っ赤のお鼻のトナカイに、長い髭を生やした赤を基調としたモコモコの服を着たおじいさん。
そして、大きな大きなソリにその上に乗っている山積みの白い袋。

今は秋で季節外れだし、そもそも俺はもう20歳だ。
もう成人している。

だと言うのに、未だに子供じみた夢を見ている。


「まさか夢だと思っているのかい?
違うよ。君にプレゼントがあるんだよ。」

「俺が欲しいものなんて、金くらいしかねぇよ。」

「本当に?」

あぁ。

俺は頷いた。
だが、そのおじいさんは首をかしげ不思議そうな目をした。


「おかしいなぁ。
私は君に1番大事なもの、“1つ”配り忘れているんだよ。」


俺は耳を疑った。
俺は子供の頃、毎年ちゃんとプレゼントを貰っていた。
配り忘れているなんてそんなことあるのか?
そもそも、サンタっていう存在は………。


「ふふふ、そう恥ずかしがるな。成人したって心はまだまだ子供だ。

さぁおいで。」


俺はおじいさんに手を引かれるままにソリに乗った。

そして、おじいさんはハイヤ!と声を上げるとそのソリは動き、宙へと浮いた。

みるみるうちに自分の家が小さくなる。
どんどん街が小さく見える。

俺は少しテンションが上がった。

そして、おじいさんにヒョイと白い袋を渡された。


「タダで乗せるわけないじゃろう?
さぁ配るんだ。君へのプレゼントはその後だ。」

俺は「はぁ?」となったが、飛び降りる訳にも行かないのでおじいさんに従った。

俺たちは最後の1つを配り終えると、おじいさんはニコリと笑い、俺の頭に手を乗せた。

“大きくなったな”

そして、そのまま再びシャンシャンと鳴り響き、おじいさんは消えた。

おじいさんが消え、そこに残ったのはひとつの小さな箱だ。

俺はそれを開けた途端、涙がボロボロとこぼれてきた。


そこにあったのは、父親の唯一の形見であったボロボロになった腕時計だった。

俺の親は俺が中学に上がる時に離婚した。

俺は裁判の結果、に母親の元へ行くことになってしまったが、父親のことは大好きだった。母親よりも。

その時に貰った父親の腕時計。
母に取られ、そのまま帰ってこないと思っていたが、今目の前にある。


そして、俺は思い出した。


小6の時、最後に願ったプレゼント。

それは、父親の笑顔だった。

だが、父親は俺が中二の時に持病が悪化し、亡くなった。

俺は嗚咽を漏らしながら、一晩中泣いた。


“ありがとう。親父。
最高のプレゼントだ。”



12/20/2022, 11:29:21 AM