【お題:愛を注いで】
少し昔話をしよう。
これはまだ、歯車が壊れる前のお話……否、彼女が生まれた時点で、歯車は歪んでいたのかもしれない。
大陸レークスロワは、その殆どが西洋文化の国である。その中で、唯一の漢文化の国が、桜花國。
それなりに広い国で、東側を人間が、西側を獣人が治めている。
中でも、東側に生まれたある一人の女性は、それはそれは有名であった。
東側には、華族(かぞく)と呼ばれる、所謂貴族がおり、四宮家に生まれた、桔梗と名付けられた彼女は、誰からも愛される美貌と、清らかな心を持っていた。
何人もの男達が彼女に求婚する中、何年もかけて彼女の心を射止めたのは、華族のまとめ役、黒影家の嫡子、柊であった。
結婚一年が経つ頃には二人はとても仲の良い夫婦として、國中に認知された。
ただ、桔梗は体が弱かった。それは生まれつきのものであり、当時の医療では、どうしようもないものであった。
それでも、柊は桔梗に愛を注ぎ続けた。それは、異常ともいえる執着であった。
そうして、その執着は段々と、必然的に狂気を孕んだ。
柊が望んだのはただ一つ。愛する妻と長く生きること。そのためには、どんな犠牲だって払ってしまえる程である。
そう、どんな犠牲でもあっても……だ。
雨が降る音がする。窓から空を眺めると、どんよりとした憂鬱なもので。
背後でカチャカチャと、金属が触れる音がして、なんとか溜息を飲み込んだ。
「なぁ」
「ん」
「……貴様は、そのままでいいのか」
相手の顔を見ずにそう告げれば、ふんっと鼻で笑うような返事だけが返ってくる。
不穏な空気を読み取ったのか、はたまた何も考えていないのか、相手が連れている少女……ざらめは純粋さを滲ませた瞳を瞬かさせる。
「おじさま? 憖? なんの話しなのです?」
「ざらめは気にしなくていい、俺がざらめの食料供給をやめるわけがないからな」
まるで、父親が娘に愛を注ぐように、その声色は酷く甘く優しい。
それが、幻想であり逃げなんだと、本人が一番よく理解しているだろうに、そうでもしないと精神が保てないのだろう。
桔梗を失った、柊のように。
「どこまでも似たんだな、貴様は」
「何か言ったか?」
「いいや、それより程々にしておけよ、特殊警察から怒られても知らんからな」
人の魂を糧として生きるダークエルフ。彼女に食料を提供するためだけに殺戮を繰り返す、妻子を殺された殺人鬼。
妻を長生きさせるために、人間も人外も殺して、その細部の細胞を研究し、異端児という忌々しいモノを生み出した柊。
黒影家という歪みと、愛を注ぐことという狂気が凝縮された親子である。
一度壊れた歯車はもう、元には戻らない。
ーあとがきー
今回のお題は愛を注いで。
そのままでは、使いにくかったので、愛を注ぐだけ使わせて頂きました。
というわけで、柘榴さんのご両親、黒影柊と桔梗のお話。
レークスロワ、恋愛面での狂気は様々あるので、何処をピックアップしようかな♪とワクワクしました。というわけで、黒影家をピックアップです!
時間軸としては、今までの逆さや何もないフリ、心と心から三年後くらいを想定。憖と柘榴が仲良く話すのは、その辺。私は二人の寡黙なんだか、お喋りなんだか、判断しにくい会話が好きです。
そして、ざらめちゃんが何者なのか、サラッと記載させて頂きました、彼女は人の魂を食べるダークエルフです。だから、柘榴さんは殺戮のをやめません。
異端児も少しだけ出しました、柊は一体何をして、異端児を生み出しのでしょうか……。
それでは、今回はここまで。
また、どこかで。
エルルカ
12/13/2024, 12:32:24 PM