安達 リョウ

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もしもタイムマシンがあったなら(数分後の未来)


地球滅亡、最後の日。
空は真っ赤に染まり、無数に細かい粒の隕石が降り注ぐ。
何度か巨大な拳大、それ以上のものも混じって落下しており、街は既に壊滅状態。辺りに人影は見られなかった。

「教授、!」
―――最早残骸と化した街の片隅で、彼が白髪の老人に切羽詰まった声を上げる。
二人の背後には荒廃した景色にそぐわない、白い球体の真新しい時空間装置―――“タイムマシン”が設置されていた。

「いい、わたしのことは気にするな。早く乗りなさい、時間がない」
「しかし………!」
躊躇する若い彼の両肩に、教授が険しい表情で手を乗せる。
「もうわたし達が、人類最後の人間となってしまった。しかし神様もご慈悲を下さる、これを残しておいて下さったのだから」
教授は目を細め、その白い物体を見やる。

「何とかここまで完成にこぎつけられて良かった。さあ乗りなさい、過去を変えてきてくれ。もうタイムマシンの燃料が片道しかない、ここへ戻ることもないだろう。心して行くんだぞ」
過去へ―――この人類を滅亡をさせる隕石の軌道を変える、旅路へ。
「ならば教授も、」
「定員は一名だ、それは長年わたしの助手だった君が一番わかっているだろう」
「ですが!」
このままでは、と続ける彼に教授が優しく微笑む。

「わたしはもう年だ、過去を変える力もない。若い君なら安心して任せられる。行きなさい、長年の研究の成果を無駄にしないでくれ」
―――教授の真摯な眼差しに、心を鬼にして頷くと彼は颯爽とタイムマシンへと乗り込んだ。

「時間軸は修正してある。どこまで過去を遡れるか、行き先は不確かだが、今の状況を覆せる過去へと辿り着けるはずだ」
「はい! 必ずわたしが地球を救ってみせます!」
頼んだぞ。
二人は最後に固く頷き合うと、白い球体は徐ろに浮遊し、一瞬でその場から消え去った。

「………」
上手くいけばいいが………。

―――降りしきる隕石の中、ふと教授の脳裏に数日前のタイムマシン完成時、喜びを二人で分かち合っていた場面が蘇る。
………ああ、わたしの役目もこれで終わった………。

『教授、完成したタイムマシンの試運転では設定はどうされますか?』
『ああ、とりあえず数分先の未来にしてみよう。それが成功したら、設定を過去にしておいてくれ』
『了解です』

教授が役目を果たせたことを感慨深く噛み締め、死を覚悟したその時。
突如宙に、先程まで目の前にあった白い球体が現れ教授は目を瞠った。
………戻って、きた………?
いや戻れるはずがない。これは、

―――タイムマシンの中の彼と目が合う。

「………」
「………」

地球滅亡、人類滅亡まであと僅か。
―――彼らは為す術なく、見合って固まったまま動かなかった。


END.

7/23/2024, 5:41:26 AM