彩士

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夕焼けに照らされた海はほんの少しだけひんやりとしている。足首まで浸かったままバシャバシャと歩いてみた。水の中でジャリジャリと鳴る砂の音が心地よい。
膝まで捲し上げた淡い緑色のズボンのすれすれまで進む。つい先程まで見えていた自分の足の指が見えなくなった。濁りきっている。

「水は記憶を保持する」とどこかで聞いたことがあるけれど、本当にそうなのかな。今、わたしがたった一人で海にいることも覚えていてくれるのかな。そうだったらいいな。

「あ、今日満月か」

満月だからといって別に大したことはしないし、何も思いもしないけれど突然思い浮かんだ。月を目の前いっぱいにみてみたいな。宇宙服とかロケットとかそういったものに何も捉われないで、ただこの単身だけで宇宙旅行に行ってみたい。
空気もない、水もない空間から帰ってきて、この地面と海と太陽の下での日向ぼっこを満喫したい。
できっこないけど。

空の藍色と海の深い青色が同じになって
満月の光の道が海上に見えた頃に家に帰ろう。

それまではここでわたしの昔話でも聞いてくれないかな。ちょっと今寂しいの。

5/13/2025, 11:38:57 AM