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あの日の温もり


 腕の中の小さな赤子はすやすやと眠っている。既に親のないこの子を引き取ったのは、次へ繋げるため。この子は私の跡を継いでくれることだろう。ずっと生まれなかったジャミールの民、修復師の技術を継ぐものが今この腕の中で、全てを預け安心し切って眠っている。
 どうか、この命が長く続きますように。そしてこの子にも暖かな温もりがいつか、今はまだこの小さな腕の中にありますように。


 腕の中にあるのは、十三年前まで私を温かく見守り抱きしめてくれたあの手首にあったバングル。その冷たく硬い感触を抱きしめた。その冷たさと喪った悲しみに涙が出てきた。そのうち金属は私の体温を奪い熱を帯びる。どうか、私の愛子をお守りください。この手の中のバングルをその愛し子の腕へと通してやる。手の中で温めたそれは、愛し子の二の腕にピッタリとおさまった。

「ムウ様、これは?」
「これは私の師、シオンの遺品です。見事な意匠でしよう? シオンの作ったものです。おまえを守ってくれることでしょう」

 愛し子はその腕のバングルを眺めて、目を輝かせて笑った。


大羊→中羊→子羊へ

3/1/2025, 10:07:11 AM