みんなが渡したチョコレートの甘い残り香がほのかに漂う。
隣で教科書をめくる君の横顔をちらちら窺いながら握りしめていた鞄を、顔を上げた君の瞳が捉えた。
「それ、誰に渡すの」
「え」
私の動揺と同時にぶれた手に合わせて、鞄の中のチョコレートががさりと音を立てる。
「もうみんな帰っちゃうよ」
そう言った君は、視線をずらして時計を見上げた。そのタイミングで針が六時を指そうかと歩を進める。
ばれてないみたい、と息をついた私を見透かすように、君が言葉を繋げた。
「俺はまだ帰らないけど」
その言葉に含まれた意味を十分すぎるくらいに感じ取ってしまって、思わずその瞳を見つめる。
その瞳に映るのは、もう暗い空、と呆然と立ち尽くす私。
「······君に、渡したいんだけど」
「うん」
柔らかく目を細めて、しなやかな手をこちらに伸ばす。
震える手で渡したそれを、君は心の底から嬉しそうに受け取った。
ありがとう、と囁く声がやけに大きく鼓膜を揺さぶる。
「本命であってる?」
「あってるよ」
「返事してもいい?」
箱を机に置いて立ち上がった君が、私との距離を一歩縮めた。
拒否権なんて与えられないまま頷く。
「俺も好きだよ。付き合ってほしい」
夢にまで見た、むしろこれが夢かもしれない状況に息が止まる。だけど、その瞳が伝えるのは現実でしかあり得ない暖かさで。
涙が溢れた私を、君の腕が包み込んだ。
誰もいない教室
季節感ないですね。
私は明日(今日?)推しとご飯なのでめっちゃ浮かれてます。
9/6/2025, 3:08:18 PM