辛いこと

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ー怪しい薬ー(見つめられると)

「いやー。ごめんね?悪いとは思ってるんだけどさ〜」

男は、小指ほどの小瓶を指先で転がしながら、笑った。
それは心底不快になる意地の悪い笑いだった。
軽い態度の裏側に感じた、粘ついた愉悦。

「僕もお金がないと困るから……。でも、いいじゃん。どうせ、死にたかったんでしょ?」

「良かったね」と笑う男は、いつからか床に座り込んでいた私を
見下ろしながらそう言った。

私は、いつからここにいたのだろう。
たった数分前のことしか、分からなかった。
知らなかった。

まるで数分前に生まれてきたみたいに。

どうして、私の体はこんなに熱いんだ?
答えられはしない。
体の内側から、じわじわと焼かれているみたいだった。

「ねぇ」

短い呼びかけ。
その一言に、嘲笑が含まれていた。

「お前が僕と「付き合いたい」って言った時の理由は確か…」

男は、私に目線を合わせるように、静かにしゃがんだ。
私はこの男と、どんな関係なのか?

知らないのに、身体は男を拒んでいた。
嫌悪感だけが、私の身体を駆けていく。

それでも耳を塞げなかった。

「確か、僕の目に一目惚れしたんじゃなかったか?」

視界に映った「目」と目が合った。
知らない目だった。
私はこれが好きだったのか。

瞬間。
視界が、焼けた。

目の奥から、ぐちゃぐちゃに崩れていく。

皮膚が、溶けている気がした。
瞼を閉じられない。
閉じているのかどうかも分からなかった。

ただ、“見られている感覚”だけが消えない。

とっさに瞼を指でなぞった。

ぐちゅ。

そんな音が、小さく鳴った。
どんどん垂れてくる、形の保てなくなったそれ。

いつしか、体中の感覚がなくなっていた。
どこからが体で、どこからが床なのか。
判別できなくなっていた。

「思ったより、柔らかくなるなぁ」

どれくらい経ったのか分からなくなっていた時、男の声が落ちてきた。

「副作用は出るみたいだけど、結構いい出来だと思わない?」

何を言っているのか。
理解できなかったけど、別にいいのかもしれない。

「そろそろ溶かしきっちゃうね」

考えても、なにも変わらないんだから。

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おやすみなさい。

3/28/2026, 11:18:21 AM