そらいろ

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 誰かになりたかった、私以外の誰でもいいから誰かになりたかった。
 泣きたい気持ちを堪えながらそう伝えても、目の前の人は怒りもせず悲しみもしなかった。仏頂面のまま。

「誰かになりたいは、自分らしさを殺す言葉だよ」
 柔らかい声から出た言葉は鋭利で熱くて、私の心を裂くには充分だった。
「それは君を信頼してくれてる人にも失礼だし」
 追い討ちをかける言葉はもう耳にすら入れたくない。それでも殺すという強いワードを聞くと先ほどのように無責任に言葉を発することは憚られる。
「じゃ、じゃあ、それなら、…夢見る少女のようになりたい。…これなら、前向きに捉えてくれますか、失礼じゃないですか」
 そこでようやく、相手は破顔して言った。
「それなら、ギリセーフ。ほんとにギリギリだよ」
 ゲームの勝ち負けのような言い方が今にそぐわなくて可笑しかった。次は、私が笑う番だった。

/夢見る少女のように

6/7/2025, 12:45:33 PM