蒼月の茜雲

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テーマ“この世界は”

目覚めたら
俺は……見た事もない場所に居た。
甘ったるい匂いが充満している。
ネバネバする液体が、体中にまとわり付いている。
動けない。

昨日の事を思い出してみる。
昨日、俺は異世界に召喚され
勇者として崇められ、そのまま
初めてあった人たちと魔王退治に出かけた。
勿論拒否権などない状態で。

普通、こう言った小説やゲームなんかだと
勇者様は魔王を倒して英雄になりました。
って感じになるんだろうけど、俺は今、
食虫植物の巨大版に飲み込まれて、身動きが取れない状態にいる。

勇者様御一行は、勇者(そもそも知りもしない勇者と言われ浮かれている異世界人。役に立たない)を見捨てられたと思われる。

俺みたいに、突然「さあ、旅立たれよ」と言われるわけでもなく、それなりに強いパーティーだった筈だし、この森に入った時、謎の生物がいた時も
彼らは、我、関与せず的に
自分達の身を護っているだけで
俺の事は護ってくれなかった。

この世界の事を右も左も分からない
闘い方も分からない、貧弱な勇者など、護る価値無しだと認識したんだろう。
何の説明もされず、俺は今、死にかけている。

ああ、このまま、この食虫植物に溶かされ死にゆくのかと思うと……

途轍もない怒りが湧いてくる。
そして俺は、そのお陰で、勇者の力に目覚めず
魔王の力に目覚めていた。
この世界の人間達に対しての怒り憎しみが
俺を魔王にした。

魔王になった瞬間、俺は食虫植物を内側から切り裂き、外の世界へと舞い戻った。

俺の目の前にいたのは、木陰で寛いだり、ピクニックをしている、勇者御一行様とされた人間達…。
俺の姿をチラリと見て、溜め息をついたのが見えた。

その瞬間、俺は怒りの力を抑えきれずに、その人間達に放った。

1人目が倒れた瞬間、(何だったかなこいつ)
「な、何してんだよ!?俺ら仲間だろ」
そう、剣士のやつが言った。
「俺が、あの中に居た時、助けようとしなかった奴が…仲間…か?」
俺は睨みつける。
「それ、は…あの敵が強くて、回復したら直ぐにでも」
「回復したらっていつだ?俺があの中で溶かされ尽くしているかも知れないのに…か?」
「それ…は」
剣士は目を逸らす。
その瞬間俺は、そいつに一撃を食らわせ、即倒した。
「わ、私は、助けましょうと言ったのよ」
魔術師の女が、そう言う。
「…俺が怪我をしても、治そうとしなかったのにか?」
「そ、それは……」
俺は、女を見下し、ソイツも倒した。

この世界は、腐っている。
勝手に勇者として喚び寄せたのに
なんの説明も無く、1人戦わせ、死にかけたのに誰も助けず、見殺しにしたくせに言い訳だけして、謝罪も無い。

そして、勇者として喚び出された俺は
魔王に成った。
俺が倒しに行こうとしていた魔王の事は知らないが、俺はこの世界の…この土地の魔王に成った。


いつか、別の勇者が俺を倒しに来るかもしれないが、この世界が腐っている限り、勇者の力には誰も目覚めないだろう。

1/15/2023, 10:39:36 AM