「なんか食いたくてコンビニとか入るとさあ、意味もなく何周もしちゃわねえ?」
高校に入学して3週目、木曜の昼休みだ。俺はもっぱらつるむ相手になった菊池と教室でメシを食っていた。菊池は俺と席が前後だったんで、たまたま喋るようになった。こいつが菊池で俺は黒田。「俺たち、メジャーリーガーって感じの名前じゃね?」とぼそっと言った俺に、「もしくは広島かな」と菊池が返してきたんで、絶対ノリが合う奴だと確信した。
私立っていうこともあって、まあまあ豪華な学食に最初はテンションが上がって食いに行ったりしてたんだけど、段々食堂の人の多さの嫌さが勝つようになってきた。それで最近は教室で昼飯を済ませている。
自分の席について弁当の蓋を開ける俺の目で、菊池は自分の椅子を俺の方に向けもせず、逆向きに椅子に跨って、背もたれに上半身をあずけている。自分のリュックから引っ張り出したコンビニのメロンパンの袋をだるそうに開けるのを見て、ふと思いついた話題を振ってみた。
「腹減ってはいるからお菓子の棚んとこ行くんだけどさ、いざ目の前にすると何故か、今日これの気分じゃねえなってなんの。でももうなんか買おうって1回決めてるからさあ、絶対何かは買いたくてコンビニの中をぐるぐるしちゃうんだよな」
「あー」
菊池は顎を擦りながら上を向く。 自分の行動を思い出しているらしい。
「いや、無いな」
「無いんだ」
「おん。入って食いたいもの無かったらすぐ出るかも」
「お前凄いな」
俺は大抵食い意地の方に負けて、チルドとお菓子コーナーを行ったり来たりしてしまうタイプだ。何周もするくせに、結局レジ横のホットスナックの誘惑に引っかかってチキンを買ってしまう。そういう話をすると、菊池は「じゃあ最初からチキンでいいだろ」と笑った。
「まあそうなんだけどさ、他のコーナーでも時々見てるうちにビビッと来る時があんの。今日はこれの気分だったんだ!って」
「あー、それは分かるな。店に入るまでは思いついてないんだけど、見た瞬間これだ!って思うんだよな」
うんうん。相槌を打ちながら、菊池は俺の弁当を覗き込む。右手が卵焼きをひとつ掠め取っていった。
「あっ、お前」
「悪いな、ビビッと来たんだよ」
菊池はしれっとした顔で卵焼きを咀嚼する。憎たらしい。自分はメロンパンひとつなのでおかずを奪い返すことが出来ないのが悪質だ。
「後で古典の宿題見せろよな……」
「いいけど保証しねーよ」
そんな話をしながらだらだらとやる。
昼休みはまだ続く。高校生活は始まったばかりだけども、既に俺はこの時間を気に入り始めている。
キモいんで本人には言わないけど、菊池と最初に話したときから俺の中では結構、ビビッと来ている。こいつとはいい友達になれるって。先のことは分からない。でもこの先こうやって昼休みにだべっていられたら、まあ悪くないよなって思う。
菊池に奪われる前に唐揚げを食いながら、明日は「そういえば部活決めた?」と聞いてみようと思った。
(巡り逢い)
4/25/2025, 12:05:28 AM