三神狐

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『砂時計の音を知っているか?』

 そんな宣伝文句で投げ売りされていた砂時計を、僕は手に取った。木とガラスでできたシンプルな砂時計。価格は500円。
 あいにく砂時計の相場を知らない僕は、それが高いか安いか分からなかった。財布を開くと、おあつらえ向きなな500円玉が一枚。僕はすぐさまレジへ向かった。

 帰ってすぐ、リビングの机に乗せてみる。片手でことん、とひっくり返す。さらさらと砂が流れ始めた。
 僕は砂時計の近くに顔を寄せて、目を瞑った。
 ……
 集中しなければ聞き取れない微かな音。テレビの雑音をうんと小さくしたような、山を一つ越えた海の音を聞いているような、そんな音。
この消え入りそうな音が、僕たちの世界を支配している時間を刻んでいるとは、にわかに不思議である。
 しばらくして、音が止まった。
 また砂時計をひっくり返し、目を瞑る。時の刻みが静かに再開した。

 時を刻む音と言えば、昔は大時計の音を想像した。荘厳なコツ、コツと1秒ごとに時を刻む。
 しかし、砂時計はもっと細かい、僕らでは認識できないような時間を刻んでいる。砂時計の前では、人間も虫も自然も、同じ時間の流れに閉じ込められるのだ。
 
 砂時計は神様の発明品かもしれない。
 僕はそう思いながら、再度砂時計をひっくり返した。

10/17/2025, 2:43:06 PM