『終わらせないで』
国を勝利へと導いた陛下と私と、謎の余所者。功労者は数多といたが、特にこの3人は凱旋のときから民衆に英雄だと讃えられるようになった。
素性の知れぬ異国の者が領内にやって来たとき、私は速やかに排除すべきだと進言した。しかし陛下は私を制し、それどころか参謀に迎えると言った。
「長く膠着の続いた戦局には新たな風が必要だ」
正直言って承服しかねたが、陛下の意向を覆すことはできない。結果としてはあの決断がなければ我らの国は今も敵国と睨み合いを続けていたか、或いは敗残国となっていた。私の目よりも陛下の目が遥かに優れていたということになる。
陛下と私とは幼少の頃からの主従であった。主従ではあったが、こどもの頃にはこどもらしく戯れ、互いに好意を抱き合っていた。こどもらしい恋に耽ってはいたものの、身分のことを思えば婚姻は叶うこともないと徐々に理解し、そしてそれぞれの婚約が決まりつつあった頃に戦争が起こった。発端は彼女の父君が弑されたことであった。皇女である彼女は婚約を取りやめて女王となり、国を率いる立場になった。私は婚約を破棄し、陛下のあらゆる補佐を務めるために奔走した。
戦争の終わった今も私の想いはあの頃のまま。しかし陛下は国を救ったあの余所者に心を傾けているのかもしれない。もし彼が陛下に求婚することがあれば、陛下は迷わずその手を取るのだろうか。もしそうなれば、ただの臣下の私には何も覆すことができない。平気な顔で祝福できる気もしない。
王の間には私と陛下がいる。心の靄を何ひとつ言葉にできないまま、私は参謀である彼が部屋へと入ってくるのをただ見つめていた。
11/29/2024, 3:25:38 AM