『街の風』
今日もこの花畑に来た。
近くに設置してあるベンチに腰をかける。今にも降り出しそうな雲の色をしているせいか周りには誰もいない。
彼が消えてから1年が経った。
消える数日前に彼に「会えるのは今日が最後」と言われ、今彼に起こっていることを説明された。彼はこの街のヒーローだからいつかそういうことがあるかもしれないと覚悟はしていた。だが実際に言われると耐えられないわけで。顔をぐしゃぐしゃにして泣く私を彼は優しく抱きしめ「ごめん…ごめんね」と震える声で謝った。謝るぐらいなら消えないでほしい、とは言えなかった。だってそれは、今まで街を守ってきた彼を、彼らを否定することになるから。「最後なんて言わせない!ずっとずっと待ってるから!」涙が収まってきた私は彼を指さしてそう言った。その言葉を聞いた彼が寂しそうに、でも嬉しそうに笑ったのが頭に残っている。
それから毎日私はこの花畑に足を運んでいる。彼と出会ったこの花畑に。ここに来れば彼に会えるような気がしたから。でも……彼は現れない。
「辛いな……」
彼が現れない毎日を過ごす度、辛さが積もっていく。「ずっとずっと待ってる」と言ったくせに根をあげようとする自分が情けない。
そろそろ帰ろうかなと立ち上がろうとした時、強い風が吹いた。花弁が舞い上がって思わず目をつぶる。
その風と共に私を呼ぶ声が聞こえた。ハッと目を開ける。
目の前には彼がいた。あの頃と何一つ変わらない、彼が。彼がもう一度私の名前を呼ぶ。
「風が…風が貴方を運んできてくれたのね」
そう震える声で言う私の頬に手を伸ばす彼。
「あぁ……この街の風に乗って帰ってきたよ」
彼の指が私から出る涙を拭う。彼のその暖かい体温に想いが溢れ出し、勢いよく彼に抱きつく。
「おかえりっ!!」
【風に乗って】
4/30/2026, 9:55:24 AM