真澄ねむ

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 ねえ、と彼に話しかけようとして、横を向いたらいなかった。
 一緒に並んで映画を見ていたはずなのに、気づけば彼は部屋の隅で蹲っていた。いつからそうしていたのか、映画に熱中していた秋穂にはわからない。
(……具合、悪いのかなぁ……?)
 つい、三時間ほど前に訪ねたときは、元気そうにしていたのだけれど。平気そうにしていてくれたのかな。色んな推測が泡のように頭の中に浮かぶけれど、実のところは彼にしかわからない。とはいえ、気づいたからには放っておくわけにもいかない。
 秋穂は立ち上がると彼に近寄った。とんとんと肩を叩くが、彼は微動だにしなかった。
「……郡司くん、大丈夫?」
 囁くと、彼はパッと顔を上げた。その顔は赤いとまではいかないが、ほんのり朱が差している。
 やっぱり熱があるのだろうか。心配そうに眉を八の字にして、小首を傾げた秋穂に、彼は慌てたように首を横に振った。
「別に何かしんどいとか、そう言うんじゃないから。気にしないでくれ」
「気にしないで、って言われてもね……」
 ふふと秋穂は困り顔をしながらも小さく笑った。
「もし、具合が悪いみたいだったら、一度帰るよ。郡司くんに無理してほしくないし……」
 彼女の言葉に、彼は余計に首を横に振った。
「ぐ、具合は悪くない!」食い気味にそう言ってから、彼は声を小さくして続けた。「秋穂サンが俺の部屋にいるって思ったら、緊張して頭が真っ白になっちまうだけなんだ」
 秋穂は目を大きく見開いた。それから、ふんわりと微笑んだ。
「わたしも郡司くんのお部屋にいると思ったら、とても胸がどきどきするの」
 お揃いだね、と彼女は鈴のような笑い声を上げたとき、思わず彼は彼女を抱きしめていた。理由なんてわからない。たぶん、頭の中が真っ白だったからだろう。
 茹で蛸のように真っ赤な彼と同じくらい、秋穂も顔を赤くして、彼の為すがままにされている。

12/8/2023, 2:59:25 PM