「ねぇ。本気……?」
口元を引きつらせながリビングのソファに座る彼女に、ため息をつく。
往生際の悪さにあきれつつも彼女と向かいあった。
白くて滑らかな彼女のふくらはぎに甘えるように触れる。
「本気もなにも、サンダルを買ってきやがったのはあなたですよ?」
「そうだけど……」
先日、花柄でデザインされたラバーメッシュのパンプスを買ってきたのは彼女自身だ。
ラメの入ったゴールドは煌びやかなのに、ビニール素材ならではの透明感があって涼しげな印象を与える。
ヒールもあり、アンクレットにはクリスタルを模したラインストーンが上品にあしらわれており、大人びたデザインをしていた。
いわゆる大人版のキラキラ靴らしいのだが、そんなワードは初耳である。
子どものときに憧れていたからと、無垢な瞳で靴を見つめる彼女は純粋にかわいかった。
この靴を履いた彼女と出かけたい。
しかし、靴擦れを起こして傷をつけてはいけないから、ドライブやカフェでまったりできる場所がいい、なんて浮かれて気がついた。
キラキラ靴なんかよりも、透明感溢れた爪の先まで美しい素足を人前に晒すつもりなのか、と。
そんなの絶対に耐えられないから、いっそのことルームシューズにしてはどうかと提案したが、当たり前のように却下された。
揉めに揉めて俺が出した折衷案に一度は納得してくれたのだが、ここにきて彼女が抵抗を見せる。
「ルームシューズにしてくれるんですか?」
「これ履いた私と出かけたいんじゃなかったの?」
「出かけるなら爪を整えましょうって言っています」
俺が出した及第点は、彼女の足の爪を俺が整えること。
爪やすりが苦手な彼女は、恥ずかしさもあって激しく抵抗した。
なし崩し……もとい、完全に説得したと思っていたのに。
彼女のふくらはぎに触れていた手を、足の裏まで滑らせた。
軽く持ち上げたあと、その小さな足の甲に唇を乗せる。
「ちょおっ!?」
あわてる彼女にかまうことなく、何度も唇を落としていく。
目線を上げれば、顔を真っ赤にしながら俺を凝視した彼女と目が合った。
「これより恥ずかしいことなんてありますか?」
「〜〜〜〜っ」
口角を緩めながら伝えれば、言葉を失った彼女はソファに背を預け、天井を仰ぐ。
脱力して身を委ねた彼女の爪の先に、俺はそっとヤスリを当てていくのだった。
『クリスタル』
7/2/2025, 3:42:48 PM