寡黙な父だった。
食事中はテレビを見ること、携帯を触ることが禁止だった。
母は共働きで、料理が嫌いだった。
兄とは歳が近いこともあり、つまらない事でよく喧嘩をした。
みんなそれぞれ、違う日常。違う景色の中で、一日を迎え、そして終える。
そんな僕ら家族は、毎週末だけ、4人が同じテーブルで夕食を食べた。
しん、としたリビングに置かれたダイニングテーブルに、毎回不思議なくらい味の定まらない野菜炒めと、玉ねぎの味噌汁。
冷蔵庫だけが冷たい音を響かせながら、食卓を彩っていた。
ちらり、と横目に父を見る。
黙々と食事をし、深い皺を眉間に刻んだまま話さない。
顔を上げてみたが兄も、母も最後の晩餐のように。
表情も変えず箸を運んでいた。
せっかく、家族で食べているのに。
僕は笑って口を開いた。まるで道化師のように、時に大袈裟に、時におどけて1週間を家族に話す。
父が、ふっ、と笑って。兄と母が笑った。
それだけでいいと思う。僕はみんなの笑顔がすきだ。
家族が、どうしても、すきだから。
「向かい合わせ」
8/25/2023, 12:47:09 PM