空に向かって
陸上部でずっと短距離をやっていたのに、コーチが「たかおは長距離の方が向いてるぞ。長距離をやってみないか」僕は半信半疑で、曖昧な顔をしたらしい。「騙されたと思って!インターハイは長距離を目指そう」重ねてコーチが言った。
短距離でもそこそこの記録は出ているけど、確かに伸び悩んでいる。でもだからと言って、急に長距離だなんて、無茶じゃないか?
その日から長距離向けの練習に切り替わった。まず筋トレだった。前から筋トレは取り入れていたけど、体力をつけるための筋トレだ。瞬発力でやっていたのが、長く走るのだから、速筋から遅筋にならなければならない。
インターハイまで3ヶ月しか無いのに、コーチはどうしても長距離にいけという。僕はだいじょうぶなのか?
なんだかんだで1ヶ月過ぎた今日から10000メートルの練習だって。校庭の400メートルコースを使って、25周。多いのか少ないのかのイメージも沸かない。
走り始めてからもなんだか分からない。僕は、ちゃんとコースを走りながら、気分は迷走していた。
「たかおーっ、あと1周だぞー」コーチの声で我に返った。そんなにもう走ったんだ。最初は辛かったのに、いつの間にか当たり前のように走り続けていた。心身ともに辛くなかった。予想したほど体調は悪くなかった。むしろ良い。僕は空に向かって走っている気分だった。
ランナーズハイという言葉があるが、これか!身を持って実感した瞬間だった。
No.156
4/3/2025, 3:13:28 AM