G14(3日に一度更新)

Open App

『春恋』『遠くの声』『静かな情熱』


 春。
 それは恋の季節。
 子孫を残すため、動物たちが運命の相手を探し求める。

 それは人間も例外ではない。
 普段、恋に興味の無い人も、この季節ばかりは冷静ではいられない。
 それが春恋の魔力なのだ!

「という訳で合コンしよう!」
「やらない」
「ええ!?」

 放課後帰りのマックにて、友人の沙都子とハンバーガーを食べていた時の事。
 私が合コンのお誘いをすると、嫌な顔をされた。
 輝かしい未来のための提案なのだけど、相変わらずノリの悪い事だ……
 
「なんで嫌そうな顔をするのさ」
「話に脈絡が無さすぎるのよ、百合子……
 一応理由を聞いてあげるから話しなさい。
 ……断るけど」
「理由を聞く前に断らないで!
 単純に『彼氏作ろう』って言う話だよ!」
「私は遠慮するわ……」
「そんな!」
 沙都子に、にべもなく断られる。

「私たち、華の女子高生だよ!
 彼氏の一人や二人、いないとおかしいんだよ!」
「今どき、恋人がいなくても変じゃないわ。
 というか、彼氏が二人いる方がおかしいわよ……」
「え~、やろうよ~、合コン~」
「しつこいわよ」
 沙都子は眉間にしわを寄せて、こちらを睨んでくる。
 本当に嫌そうだ。
 男に苦手意識でもあるのだろうか……

「だいたいなんで私を誘うのよ。
 あなた一人で行けばいいでしょ?
 さすがに邪魔するほど無粋なつもりはないわ」
「沙都子、金持ちじゃん?
 知り合いの金持ちの男呼んでよ。
 石油王の息子とか」
「石油王って……
 そんなにいいもんでもないわよ……
 男なんて、お金持っていようがいまいが、どれも同じよ」

 沙都子は嫌な事を思い出したのか、右手で頭を押さえた。
 私の、沙都子が男を嫌っているという推察は、あながち間違いではないらしい。
 きっとお金持ちのパーティとかで、なにかあったのだろう……
 私には関係ないけど。

「じゃあさ、沙都子は来なくていいから、男紹介して」
「いいわよ」
「やっぱりだめ――いいの!?」
「私を巻き込まないのならね」
 ダメかと思ったらまさかのOK。
 断られると思っていたので、心の底から驚く。
 でも沙都子が優しい時、なにか裏があるのだ。

「ちゃんとした男紹介してよ。
 間違ってもDV男はダメだからね!」
「安心しなさい、百合子。
 石油王の息子ではないけれど、日本じゃ誰もが知ってる殿方を紹介するわ。
 テレビにもよく出てて、性格も穏やかで、多分、百合子も気に入ると思う」
「そんなすごい男の人を紹介してくれるの!?」
「そうよ。
 優しくて力持ち。
 助けを呼ぶ遠くの声も聞き逃さない」
「おお、凄い!
 耳のくだりはよく分からないけど」
「正義感が強いって意味よ」
「そんな凄い人がいるなんて……
 ねえ、騙してない?」
「騙したりなんかしないわよ。
 ただ、どっちかと言うとカワイイ系だけどね」
「それでもいい!
 紹介して!」

 『沙都子と一緒に合コン』の話から、まさか有名人を紹介されるとは!
 しかも、『誰もが知る』ときたもんだ。
 当初の目的は達成できなかったけど、棚から牡丹餅、意外と言ってみるもんである。

「会うの楽しみだなあ!」
 こうして私は、沙都子経由で約束を取り付けたのだった


 〇

 合コン当日。
 晴れて合コン相手と対面した私は、そのまま自分のスマホを取り出し、沙都子に電話を掛ける
 
「沙都子、私を騙したね?」
『騙したりしてなんかないわよ、百合子。
 全部正直に話したでしょう』
 スマホ越しの沙都子は、大真面目に答える。
 確かに沙都子の言っていたことに間違いはない……
 けれど、私は自分の置かれた状況を鑑みて、騙されたことを確信していた。

「全然違う。
 全然違うんだよ!」
『おかしいわね……
 彼について事は、これ以上なく正直に告げたつもりなんだけど……』
「確かに沙都子は嘘をついてなかったよ。
 私もテレビで見たことあるもん!
 けどさ――」
 
 私は、自分の合コン相手を振り返る。
 確かに沙都子の言っていたように、彼は可愛いし、性格も穏やかだ。
 だけど彼は――

「――パンダだって聞いてない!」
 ――パンダのサンサンだった。

『あらごめんなさい。
 うっかりしていたわ……』
「わざとでしょ!」
『でもあなたにお似合いの殿方は、彼ぐらいしか……』
「どういう意味だコラ」
『あ、親に呼ばれたからもう切るわね。
 また学校で会いましょう』

 と、一方的に切られてしまう。
 やっぱり確信犯じゃないか!
 おかしいと思ったんだ、あの沙都子が男を紹介するなんて……

 私を騙すことに静かな情熱を燃やす女、それが沙都子。
 なぜ私はそんな女を信じてしまったのか……
 今頃沙都子は大笑いしている事だろう。

「信じた私がバカだった」
 私が地団駄を踏んでいると、サンサンが目の前に何かを差し出してきた。
 笹だった。

 『これでも食べて忘れな』。
 まるでそう言っているかのようだった。
 気遣いのできる男、それがサンサン。
 沙都子の言う通り、確かにいい男だ。
 そこだけは間違っていなかった。

「サンサンが人間だったら完璧なのに……」
 なぜ一番大事なことが、どうしょうもないのか……
 私は受け取った笹を見つめながら、世の不条理について考えるのであった。

4/20/2025, 3:04:53 AM