*ifルート加筆しました
「僕が死んだときは泣いてくれるか」
「ええ」
「こんな仕事柄、いつ死ぬかわからない」
「知っています、それは私も同じです」
「だから、今のうちに言いたいことを言っておく」
「いつも唐突ですねぇ」
「思い立ったが吉日だ」
「ふふ」
「……僕の数少ない財産は全て君に譲る。好きに使ってくれて構わない。僕にとって、それがいちばんの使いみちだ」
「はい」
「僕の代わりに、僕の願いなんて叶えなくていい。好きに生きてくれ。世界は良い方向に変わり始めた。君がすべて背負わずとも、近い未来に変革の時はやってくる」
「あなたの願いと私の願いが同じだとしても、ですか?」
「……君は本当に変わり者だ」
「あなたにもお返しします」
「僕の墓に指輪は入れないで、君が持っていてくれ。きっと君を守るはずだ」
「あなた、私の指輪だけでは飽き足らず自分のものにも細工したんですね?」
「黙秘する」
「指輪がどんなふうに守ってくれるのか、楽しみにしておきます」
「毎年墓参りになんて来なくて良い。どうせ僕は地獄に落ちるのだから」
「なら、きっと私も地獄行きです」
「僕の遺したものはいつ捨ててくれても構わない。君が必要ないと思う時が、僕にも必要のなくなる時だ」
「そんな日が来るんでしょうか」
「さて、未来は誰にも分らない」
「それもそうです」
「僕を忘れてくれたって良い。僕と過ごした記憶が君の邪魔になるのなら、悲しませるのなら、その記憶に存在する意味はないのだから」
「……はい」
「僕以外に愛するひとができるのなら、そちらをえらべ」
「それは、……」
「と、言おうと思ったが」
「え……?」
「どうにも君を手放せそうにない。死んだ後ですらも、だ」
「離さないでくださいませ」
「君も?」
「離せませんわ」
「宜しい。ならば地獄の入り口で待っていよう。二人なら責め苦の痛みだって半分に感じるだろうな」
「ええ、勿論」
「あとは、……」
「――?」
「そうだな、あと一つで最後だ」
「案外少ないですね」
「君は僕を欲深い人間だと思っていないか」
「ええ、欲深くて、自分の望むすべてを救おうとするひとです」
「過大評価が過ぎる」
「いいえ」
「……君が好きなように評価すればいい」
「そうします」
「最後の僕の望みだ。これが叶うんなら、今言ったすべてを破ってくれてもいい」
「……」
「幸せになって欲しい」
「私は、」
「それがすべてだ。君が幸せならそれでいい。他に何もいらない」
「……訂正します。あなたは、どこまでも欲のないひとです」
「そうか? ひと一人の幸せを望むんだ。十分欲深い酷い人間だよ、僕は」
「ほんとうにあなたは酷いひとです」
「あなたのいない世界で、どうやってしあわせになればいいですか」
「私のしあわせは、とっくにあなたの形になっていたのに」
「あなたの望みは私が叶えます」
「それが私の唯一の――、」
「……地獄の入り口で、私を叱ってくださいね」
私にしあわせを教えてくれてありがとうございます。それから――ごめんなさい。
ifルート
「まさか、君が僕より先に死ぬなんてことがあろうとは」
「君にも望みを訊いておくべきだったんだ。まったく、僕は本当に自分のことしか考えられない人間だ。どうしようもない」
「……このノートは?」
「ああ……まったく。君は誰よりも他人のことを考えるひとだ!」
「どうせ君は天国に行くんだろう」
「なら天国の門の前で待っていてくれ。すべての罪を償った後、どんな姿になっても会いに行くと誓おう」
僕にしあわせを遺してくれてありがとう。一人にして済まない。必ず迎えに行くから、それまで──。
*いつものシリーズとは関係ないお話です
12/8/2024, 11:39:41 PM