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人差し指のささくれに気づいた午後11時58分

ニュースキャスターの深刻そうな声を聞き流しながら
中途半端にめくれた皮を引き抜くと
艶やかな赤い丸がゆっくりと姿を現した
吉原治良の絵のようだと
じぃっと見つめる59分


ピコン!

ふと電子音に呼び戻され、
スマホの画面に目を移すと
半分眠りかけていた私の意識は大きく揺さぶられた

もう二度と見ることの無いと思っていたアイコンと
もう二度と見たくないと思いながらも
待ち望み続けたあの名前が
そこには表示されていた

「返事、していなくてごめんなさい」

「今更だけどさようなら」

私は目が潰れるんじゃないかと思うほど
目をかっ見開いてその文字を見た

あの日置いてきて
いまだ終わることを許されなかった昨日が
ついに終わる予感を


画面の向こうで
キャスターが別れの挨拶を告げている

また明日、お会いしましょう

心のどこかで、
そんな連絡が来ることを祈っていた
あの人のいる明日が来ることを
諦めの根底で、
願い続けていた
しかしもうその望みは



今の私がすべきことは
明日の仕事に備えて眠ること、
それだけだ

冷たいベッドに横になり、
布団を被ると
白いシーツに赤いシミがポツンとついた

時計を見るとすっかり日付か変わっている
どろりとした眠気の中で
私はあの「昨日」の日を
走馬灯のように思い出していた

昨日へのさよなら、
明日との出会い

明日の朝の私はどんな顔をしているだろうか
ずっと、
ずっと終わらせたかった昨日が終わった私に
降り注ぐのはどんなに明るい光だろう

願わくば
少しでも優しく暖かなものでありますように

5/22/2023, 2:28:49 PM