未知亜

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 歩き出すたびに、視界の隅で鮮やかなオレンジ色がぴょこぴょこ跳ねた。君と出会った季節にお揃いに変えた色。

 交差点の端で僕はしゃがみ込む。紐に手をかけた時、君の声が届く。

 ──カラオケでいつも同じ曲歌う先輩がいるんだけどさ、『ほどけた靴紐』が『おどけた靴紐』に聞こえて、毎回笑っちゃうんだよね。

 振り向いても誰も居ないことを、僕は知っている。君とはぐれて、どんなに硬く結び直しても紐はなぜかすぐに解けて。そのたびに僕は、どうでもいいことばかり思い出すんだ。

 左足の靴紐が解けて、始まった恋だったのにな。

『靴紐』

9/17/2025, 10:47:49 AM