『目にしているのは』
目にしているのはもう一人の自分。
俺は真っ暗な暗闇の中、鏡に写したかの様に存在するもう一人の自分に戸惑いを隠せずにいた。
一体此処は何処なんだ?どうして俺は此処に居るんだ?
異質な空間での奇妙な体験に恐怖を抱く俺に、もう一人の俺は不敵な笑みを浮かべこう告げた。
コワシタインダロウ?
ぞくりと背筋を震わせながら息を飲む。俺と同じ声音で暗く深い負の感情を乗せて耳へと届く言葉は、頑丈な鍵を何個も掛けて心の奥にしまいこんだ箱を解こうとじわじわと迫ってくるかのようで。
メチャクチャニシタインダロウ?
カチャリ……箱の鍵がひとつ、またひとつ解かれていく。やめろ!これ以上俺の心に入り込むな。そう叫びたくても出るのは嗚咽だけ。
オレトヒトツニナロウ……
大切な思い出が、光が徐々に掻き消されて行く…。
不気味な笑みを湛えて居るのは俺で、此処に居るのも俺で……。
こんなのは俺じゃない。
イイヤ、オマエダヨ。オレハオマエノココロノヤミ
オマエガカクシタホントウノオレ
やめろやめろやめろ違う違う違う!
俺の制止は効くはずもなく、迫り来る声、奥底に蠢く何か。
最後の鍵が開いた時、目の前の俺は口元を三日月の様に釣り上げ満足気に笑った。
オカエリ
俺の意識はそこでぷつりと途切れていった。
7/14/2022, 2:56:12 PM