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鏡よ、鏡よ、鏡さん。
貴方の映し出すものは、いつも真実です。
貴方の手のひらの上には、全てさらけ出されています。
真実から、目を逸らすことは、心良いことですが、お姫様は、目をそらすことはできません。
鏡さん、私は、本当にあなたの映し出すもの全てに、心を惑わされてきました。
その、真実は私を時に震わせ、轟かせ、恐怖の縁に追いやりました。
死んだはずの継母の姿、私を掴む父の悪逆、そうして皆の囁き声をです。
悲しみの声も、時に聞きました。
王子様の泣き叫ぶ声をです。
ですが、彼と私は永遠に出会うことはありませんでした。
それは、この城門の扉が、証明しています。
私の閉じ込められたこの、牢獄のような城は、彼を決して招き入れることはなかった。
そうして、私には、もうすぐ死が訪れようとしています。
鏡さん。あなたは、その真実をも、私に映し出してくれました。
死にたくない。死にたくない。
そう思って、何度手を叩きつけたことでしょう。
ですが、もう、定まった真実を書き換えることは出来ません。
欲を言うのならもっと、美しく生まれたかった……。

8/18/2023, 10:12:27 AM