湖に投げた浮きがプカプカと水面で遊んでいる。浮き沈みが激しくなって掛かった!と、しなる竿を引っ張り私は肩を落とした。半透明の糸に付いた針金の餌だけ綺麗になくなっていた。
「食べたなら挨拶くらいしてくれればいいのに」
魚側からしたらたまったものじゃないけど、そろそろ姿を見たい。私は彼に教わって釣りをしている。
「今日の魚は手強いみたいだね。釣れなくても後日また来ればいいじゃないか」
釣りに焦りは禁物だよと先生のありがたい教え。だけど、先生のバケツの中にたくさんの魚がいることを忘れてはならない。
「先生は好調ね」
「たまたまだよ。そんなに釣れる釣れないに拘りはないんだ」
「そう…。初心者だって分かっちゃうのかな」
餌の付け方とか、釣竿の捌きかたとか。
私のバケツに魚が泳ぐことはなく餌だけが減っていった。魚たちが食べ放題だと水面下で踊ってるような気さえする。もう残り少ない。たくさんつけて賭けてみようか…
「私の『たったひとつの希望』…」
「言葉が重いなぁ」
「釣れたら夕食のメインにするつもりだったから」
1匹くらい釣れるかな、と。魚だって必死に生きている、釣り針に餌をつける作業だけ様になって、水面に映っているのが悔しいところ。
最後の1勝負。投げようとする私に彼の待ったがかかる。
「かわいい生徒の為に手を貸してあげようか」
彼に後ろから抱き込まれ釣竿を一緒に持つことに。どぎまぎした私は糸が引かれても分からなかったけど、彼のアシストで記念すべきメインディッシュを釣り上げたのだった。
3/3/2023, 3:41:51 AM