Mey

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脳梗塞後遺症で左半身麻痺。
それが僕の診断名だ。
70歳で脳梗塞を発症し、総合病院の脳神経外科病棟で治療の後、リハビリ病院でリハビリをした。
麻痺で動かなかった左上肢は、なんとか頭頂部を触れるくらいには動かせるようになった。同じく麻痺していた左下肢はゆっくりだけど杖歩行できるまでに回復した。
でも、一人暮らしを継続するには不安だらけ。
医療チームや遠くに住む子どもたちの勧めもあり、1週間に2回、介護施設のリハビリに通うことになった。

朝と帰りは自宅まで送迎付き。
理学療法士と作業療法士のリハビリと、マシンを使った自主訓練。
食事とおやつと入浴サービス。来所後のウェルカムドリンクのサービスと、看護師の医療相談、必要時は施設医の診察もある。
もちろん利用料金の支払いはあるけれど、至れり尽くせりだなあ。
僕に合うように介護保険サービスの範囲内の利用を提案してくれたケアマネに感謝だな。


「おはようございます」
来所して席に着けば、すぐにコーヒーを出してくれる。
ミルクと砂糖入りで甘め。ちょうど飲み頃の温度で一口目からごくごく飲める。温くはなく、「あたたかい」がピッタリな温度。

最初に飲んだときは、初めて提供されたコーヒーの温度で驚いた。
「利用者さんが飲んで舌を火傷しないように飲み頃を出させてもらっています。熱いのに変えてきましょうか?」
申し訳なさそうにスタッフに説明され、コーヒーの交換を提案されたけど、断った。
「そっか。そういうことも考えてくれてるんだね。大丈夫だよ」
今、多くの利用者が施設に到着したばかり。
手指消毒をしながらコーヒーを配る。荷物を預かったり、利用者の話を聞いたり、彼女も他のスタッフもとても忙しそうだった。
コーヒーはあたたかい。温くない。
「利用者すべての人が舌を火傷しないように」
それはここのスタッフの優しさ。
コーヒーの交換の提案をしてくれたのは、もっと優しくて嬉しかった。


1ヶ月も利用すれば、コーヒーひとつとっても、様々な工夫があることがわかった。
糖尿病の方にはブラックコーヒーを勧めたり、ブラックが飲めなければ、砂糖ではなく人工甘味料で糖分をカットしたり。
熱いコーヒーが好みの方には、「熱いです」と説明して熱いコーヒーを提供していることも知った。
アイスコーヒーが好きな人にアイスコーヒーを提供するのはもちろん、好みを聞いて氷を入れたり入れなかったり。
また、最初にコーヒーを選んでも、緑茶や紅茶にいつでも変更することもできた。
体調を把握して必要時には緑茶やスポーツドリンクを勧めていたり。


僕の隣の席の利用者には、「熱いです」とコーヒーを置いていく。
僕は相変わらず、あたたかいコーヒーに口をつける。
一口目からごくごく飲める、飲み頃の、舌を火傷しない優しさがあたたかいコーヒーを。
「ありがとう。美味しい」
そう言ったら、コーヒーを出してくれた看護師さんが「良かったです」と微笑んだ。




あたたかいね

1/12/2025, 2:01:00 AM