暁野スミレ

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『だんだんいなくなる』 テーマ:冬休み

「おはようございまーす」
「あら、おはようございます」

 ある日の朝。寒さに震えながら電車に乗り込むと、偶然職場の先輩と鉢合わせた。
 珍しいことに車内が空いていたので、先輩と隣同士で席に座る。椅子の下にある暖房のおかげで、ふくらはぎがよく暖まった。

「ていうか電車ガラガラですね」
「クリスマスも終わったし、もう冬休みの時期だものね」
「あーなるほど。学生さんが居ないんですね」

 言われてみれば、制服の子が見当たらない。
 普段は人が多すぎて車内がぎゅうぎゅう詰めなので、何だか贅沢な気分だ。

「出勤してる時点で贅沢とは程遠いんですけどねー」
「はいそこ、ヤな事考えないの」
「でも年明けから春まで、しばらく電車空きますよね多分」

 先輩は私の言葉に「確かにね」と頷く。
 あ、分かってくれるんだ先輩は。これ言ってもなかなか伝わらないのに。

「受験終わった高校生とか、早めの春休みに突入する大学生とか、学生の数が段々減ってくるのよね。分かるわよ」
「あっ、そっちでした? 確かにそれもありますけども」
「あらゴメンね。違ったかしら」
「何というかリタイアというか」

 今度こそ伝わらなかったんだろう。先輩が小首を傾げてこちらを見てきた。
 余計なこと漏らさなきゃ良かったな、と少し後悔する。

「落単とか、留年とか、退学とか。
 社会人だったら、休職とか退職とか」
「あらまあ随分とネガティブね。経験者?」
「私自身は経験してないですけど。
 出身校が割と荒れてて。毎年知り合いが一人二人余裕で消えてくんですよ。
 学力だの出席日数だので」
「高校生くらいからなら、よくある話だわね」

 あーあ。気まずい。
 先輩にめっちゃ余計なこと言っちゃった。
 会話がそれとなく流れるのを祈りつつ、窓の外のビル群を黙って見続ける。
 横目で、先輩が口を開いたのが分かった。

「門出よ門出。この電車から卒業しただけ。
 だからどんな理由で居なくなっても、きっと悪いことじゃないわよ」
「……それだと、私達すっごい留年してるみたいじゃないですか?」
「ふふ。私はこの電車何留かしらね」

 先輩は口元を押さえて笑う。私も笑った。
 ふっと肩が楽になったような気持ちだった。

「高校の時に退学しちゃったAちゃんとか、退職しちゃった元同僚のB君とか、良い門出を迎えてますように」
「うん。皆んな良い年を迎えられますように」

 ふふ、と二人で顔を見合わせてまた笑った。

「ところで先輩。私達、あと何日で冬休み入れるんでしたっけ?」
「うふふ」

2024.12.28

12/28/2024, 12:38:31 PM