約束
思えば私は約束というものをろくにしたことがない。その言葉の持つ効力が怖かった。何らかの約束をする流れができていたとしても、いつも笑って誤魔化した。
とは言え一方的に約束を結ばれることもある。そうして結ばれた約束を、結局守ったことは一度もないように思う。例えば「恋人ができたら一番に教えてね!」というような好奇心の正当化と友情の確認作業は煩わしく感じていたし、「〇〇さんにもよろしくね」みたいな依頼は(これを「約束」と呼んでいいかは疑わしくも思うが)社交辞令と思って一度も実際に伝令したことはなかった。というか、その数時間後にはこれらの口約束など忘れていた。
唯一意識して守ろうとしていた約束があるとするならば、「他の人には話さないでね」という言葉だけだ。だったら私にも話すなよとは思いつつ、一応意識して秘密を守るようにはしていた。でもこの約束でさえ、何年も前のものはすっかり忘れている。何を話して良くて、何は話しては駄目なんだっけ? 逐一記録を取らなくては記憶できる自信がない。みんな本当に真面目に約束なんて守っているのだろうか。
先日のことだ。そんな私が、新たに約束を結んだ。数回会っただけの人と「また会いましょう」と約束をした。無論、これも相手から結んできた約束だ。あの人は真っ直ぐに私の目を見て真剣な声色で話していた。私は苦笑いをして曖昧に首を傾けるだけだった。首肯はしていない。
それでも、あれは私が守る人生で2つ目の約束になるのだろうという気がしている。何となくだ。確証はない。ただ、あの瞬間に私は約束というものの重みと暖かさを思い知ったのだ。
3/5/2025, 9:49:18 AM