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博士はお人好しだ。

本社から無理難題を押し付けられても、誰かのためになるならばと引き受けてしまう。

「一度くらい断っては?」と私が進言した時も

「研究が還元されていくのは、僕の喜びでもあるから」

書き殴られたレポート用紙に膨大な資料、培地の山を築いた主は、寝不足で真っ黒なクマを目の下に作りながら、柔らかな笑みを浮かべていた。

目の下にクマを作った聖人など聞いたことないが、その笑みはまるで聖人のようで──空気に溶けて消えてしまいそうな儚さがあった。

その姿に、昔読んだ絵本を思い出した。
人の幸せのためならば自己犠牲をも厭わない──

「博士は──幸福な王子みたいですね」

ポツリと呟いた私の言葉に、博士はますます笑みを深め、目尻に細かい皺を作りながら、こう言った。

「幸福な王子ほど立派なことを、僕はしていないよ」

でも、幸福な王子みたいに誰かを救えたなら────僕は、幸せ者だろうね。

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テーマ「誰かのためになるならば」

7/26/2024, 2:47:40 PM