すな

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 寒いのは嫌いだ。
 大人たちは近年の秋はおかしいって言う。気温の差が激しくて、寒かったり暑かったりするって。
 でも、どこら辺が暑かったんだよ。俺にとったらすごく寒いかちょっと寒いかの違いでしかない。百歩譲ってあったかい日はあっても、暑い日なんて既にない。夏はとっくに終わったんだ。

 だからさ、もういいんじゃねぇの、こたつ出しても。出そうよ。寒いんだよ。
 親に何回訴えても何言っても生返事されるから、もう自分で勝手に出した。家族には揃って苦笑いされたけど知らねぇ。今日から春までこのこたつは俺の城だ。
 そう思ってたのに。



 冷たい秋風が頬を撫でる。首元から冷気が入り込んで来るような気がして、思わず首をすくめた。
 せっかくの休日、ずっとこたつの中に籠るつもりだったのに、母さんにおつかいを押し付けられてしまった。
 今日は暖かいからいいでしょ、だって。気温が比較的高くても、風がもう冬じゃん。全然寒いんだけど。騙された。

「あんたねぇ、今こんなんで、冬になったら生きていけんの?」

 隣で姉ちゃんが呆れ顔をする。毎年聞いてる気がするんだけど、その言葉。

「なめんな、だてに十六年人生やってねぇよ」
「そこ別に威張るとこじゃないでしょうが」

 姉ちゃんは俺と同じく、購入制限が一人一個までの激安商品のために駆り出された被害者だけど、俺と違ってかなり薄着だ。かろうじて長袖、でも布はペラペラ、みたいな。家出る前に、なんでその服で大丈夫なわけ、と聞いたら、おかしいのは俺の方だと言われた。

 というか、うちの家族は俺以外、みんな体ぽかぽか体質だ。今年も俺が寒がる横で、ギリギリまで平気で半袖着てた。
 だから俺の寒さを理解してくれるのが全然居ない。平気で俺を外に出すんだ。こんなに寒いのに。

 もうこうなったら、さっさと買い物終わらせて、家に帰ってこたつでぬくぬくしてやる。そう決意をした道も半ば。具体的には目的地のスーパーまで、あと少しのところまで来たくらいだった。
 急に強い風が吹いた。
 周りの木々がざわめいて、色づいた葉っぱが次々に落ちてくるくらいの、強烈な風。乾いた空気が肌を刺して、一気に体温を奪ってく。

「っ、寒い寒い寒い無理」
「あーもー、もうちょいで着くでしょ。ちょっとは我慢しなよ」
「早く! 早く行こう! ここ無理!」
「木枯らしかな。もう秋も終わりだねえ」

 薄着のくせに平然としてる姉ちゃんが信じられない。急かしても急かしてものんびりとした歩調のままなの、なんなんだ。嫌がらせか。もう俺だけ先に行くぞこの。

「もうやだ来るんじゃなかった寒い死ぬ、凍死する」
「まぁまぁ。せっかく来たんだし、ついでに美味いもんでも買って帰ればいいじゃん。アイスとかどう?」
「は!? こんな寒いのに、狂ってんの!?」

 もはや寒さに強いどころじゃない。実は同じ人間じゃないんじゃないのか。半分以上本気でそう思って、そのまま口に出そうとした。
 そしたら俺が何か言う前に、姉ちゃんは急に真剣な顔をして。

「何を言うかね愚弟よ。あっついこたつで食う冷たいアイスは最高だろうがよ」
「…………一理ある」

 しばらく考えた末、同意せざるをえなかった。

 よし、わかった。さっさと買うもの買って帰ろう。
 家に帰ったらこたつでぬくぬくアイス食べてやる。




/『秋風』

11/15/2024, 9:57:11 AM