「何があったの?」
そう尋ねると太郎は唇を噛み締めた。そして目を泳がせながら何か言おうと口を開きかけ、目を伏せてしまった。
「言わないとわからないよ」
さっと太郎の目に悲哀が広がる。
その時、私の脳裏に昔のことがよぎった。子供の頃、自分は口下手で言いたいことが言いたくても言葉にならなくず同じような経験をしたのだ。
「今は、言えないかもしれないけど大人になれば言えるようになるよ。」
への字になりそうな唇を引き締め、私は告げる。
「君たち子供はこれから沢山の経験をして、沢山のことを知る。そしたら言葉が湧いてくるようになる。今の経験も大切なものを守る力になるんだ。」
太郎は唇をへの字に曲げていかにも不服そうだ。
「いま困ってるんだよ」
しかしその目にはもう迷いも悲哀もなかった。
4/12/2023, 10:06:29 AM