「まだ可愛げがあったのにな」
不満気な顔でベリーを突いて口に放る彼女。
ああまた面倒な事を言い始めた、と頭の片隅で思いながらも、逃げようとか離れようとか少しだって思わないのだから、我ながらどうかしている。
付き合いが長いせいか、どうにも感覚が麻痺している。
「君は今も昔も可愛げはないな」
「"は"ってなんだ。引っかかる言い回しだな」
「一般常識だと可愛い部分は少しもない」
好き勝手人を振り回して。
言うことを何一つ聞きやしない。
見た目に反して腹も性格も真っ黒。
傲慢で自信家でプライドが高く。
何処までも穢れなく気高く、その思想があまりにも眩いが故に毅くて弱さを少しも感じられず、女性特有の儚い可愛げを損なっていて。
(それが良い、とか。悪食にも程があるだろ)
食らいついて離さなかった結果が今なのだが。
時を重ねれば重ねるほど、これの何が良かったのか心底分からなくなる。
「そんな女と未だに一緒にいるくせに」
「しょうがないだろ。焼き付いているんだ」
訝しむ彼女の瞳を捉える。
翠の星は今なお色褪せない。
「子どもっていうのは、大人にとって何処が良いのかてんで分からないモノを好きになるものだろ? 蓼食う虫も好き好き、とはよく言ったものだよ。……………………いや違うか。この場合は趣味が最悪なだけか………………。全く不思議な事もある。何でよりにもよって君だったんだろうな。記憶に、過去に、思い出に、焼き付いて離れそうにないんだよ」
綺麗な髪を指で掬う。
口付ける仕草だけで、ポイと手放してしまう。
「人をゲテモノみたいに言うな」
「事実ゲテモノだ。君の何が良いんだろうな?」
「お前は今、三人敵に回したぞ? 死ぬなよ?」
「本気の心配じゃないか」
何時も通りすぎる軽口に、やっぱり全然伝わらなければ受け止めもしない、と呆れたような落胆するような。中途半端が一番良くない。
が、それでこそ彼女だろう。
(幼い頃の憧憬。焦がれた星は妖星、全く趣味が悪い)
彼女の言う"可愛げ"のある憧憬も。
今や可愛くもない執着に堕ちてしまったが。
「これで釣り合いもとれてトントンだろうさ」
【題:子供の頃は】
6/23/2024, 5:17:24 PM