「タイムマシーンがあるなら、過去と未来、どっちに行きたい?」
ぼくは本を読むきみに尋ねた。
きみは目を上げずに、けれどページをめくる手を止めて答える。
「過去かな」
「どうして?」
「なんとなく、未来は知りたくないから」
ほんとになんとなく、という風に見える。
ぼくはきみの肩を見つめた。
「ふうん。ぼくは未来に行きたい」
「どうして?」
「大人になったきみに、会いに行きたいんだ」
大人になったきみは、きっと背が高くなってるだろう。
小さなぼくをみて笑うかもしれない。
そう考えるとおかしくなった。
すると、きみがゆっくり顔を上げ、青い目を瞬かせた。
「もう少し待てば、会えるさ。その頃にはきみも大人になってるけど」
「そうだね、確かに」
やっぱりきみは賢い。
ぼくには思いつかなかったことを、いつも簡単に言う。
「そしたら今が過去になるのさ」
「じゃあ未来のきみの方は願いを叶えてるのか」
ぼくははっと思い至って言った。
きみが大人になっても過去に行きたいなら、過去である今にいるきみがその願いを叶えているってことか。
……なんだかこんがらかってきた。
「きみ、たまに小難しいことを言うよな」
青い目を細めて、きみが笑う。
未来のきみも、たぶんおんなじ笑顔をするだろう。
僕の願いも今、叶った。
1/22/2024, 12:11:46 PM