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「美しいですね」と言われた。
呆気に取られて、
そのあと腹が立った。
だから、「は?」と相手を睨め付けた。
酔っ払ってはいない。
酔っ払ってるとしたら、それはキョトンとした顔をして、こちらを見ている
「美しいですね」と言ったこいつだ。

私は美しくなどない。
身長175センチ、80キロの私は
レンタルで唯一着ることができた
全く似合わない振袖、
赤地に鶴の柄という
やけにおめでたい柄の振袖を
着込んでいた。
振袖を着るべきだという、親
の意向に従ったのがバカだった。
縦にも横にも大きい体だから赤を着ると
そそり立つ炎の柱のようだった。
そこに鶴がすっくと立っている。
着物というより、舞台背景だ。

1人きりで鏡の前に立った時はそれでもずいぶんマシに見えたのだが、
成人式に出席し
パステルピンクや萌葱色、縹色、淡い綺麗な色で
今時の振袖を着ている華奢な同年代の中に立ってみると
自分が時代錯誤でけばけばしい
置物のように思えた。
人間ですらない。

髪をアップにしたせいで細い目元はますます細くなっている。
着物は苦しくて汗はかく。
周りの視線が痛い。
誰も言葉にしないものの、「なんだあれ」と思っているのだ。
今度は気持ちの面でざわざわしてまたどっと汗をかいた。
成人式が終わる頃には
ひどくくたびれていた。

1人になりたい。一刻も早く。
誰と話すこともなく、とりあえずも会場を後にして、
そそくさと自宅に帰ろうと駅の改札まで来た時だった。
くだんの人間が
しかも見知らぬ人間が「美しいですね」などと宣ったのだ。

どこまで馬鹿にしたら気が済むのかと突き上がる気持ちがあって
反射的に
「こんな大きい私が、美しいわけなんてないです」
と金切り声で叫んでしまった。

すると、そいつは、フワッと笑って、
「大きいものはよいもの、美しいもの。
もともと、美という漢字は、大きい羊を、意味します。
あなた、「大きいから美しいわけない」といったけど、
それは間違い」
といった。
「美しいですね」
そしてそいつは、そのまますたすたと歩いて行った。

1/16/2023, 2:50:38 PM