紋志郎

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 消毒液のツンとした匂いが鼻を突く。真っ白なカーテンが風に吹かれ、パタパタと揺らめいている。窓辺には、小さな花瓶にそっと生けられた可愛い花が、一輪。
 清潔そうなベッドに、おばあさんが一人横たわっていた。私はおばあさんをじっと見下ろす。真っ黒で薄汚れた服の私は、我ながら病院にいるべきでないと思う。
「綺麗でしょう、そのお花」
 おばあさんが言った。たくさん管が繋がれたその体を、私の方によっこらせと向ける。
「病院にいた女の子がね、くれたの」
 おばあさんは目を細め、窓辺のその花を愛おしそうに見る。私は目をまあるくして、言った。
「私が見えるの」
「ええ、ええ、見えますよ」
 おばあさんは私の目を見て、にこっと笑った。その瞬間、私はなぜかひどく泣きたくなって、このおばあさんの前から逃げ出したくなってしまった。おばあさんはそんな私の心を見透かすように、ただにこにこと笑っていた。

8/2/2024, 3:00:20 PM