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 あそこにいるなと思いながらも遠くの席からそっと見守る。ああ、話ができるようになりたいなと思う。実際は話したこともなく、こちらの存在さえも気づかれてないかもしれない。

 あんまり見つめて怪しまれてはいけないので、心の中で願う。どうか親しくなるチャンスをください。ちょっと勇気を出して、話しかけてみればいいのだけど、なかなか動けない。後ろの席からこっそり願うばかりだ。

 そのうち、そんな機会も終わりが近づいてきた。もう会えないかもしれない。その姿を見られただけでも良かったと無理やり思おうとする。

 「あの、隣いいですか?」と、声をかけられた。振り向くと、えっ?と思う。いつも前の方にいたはずなのに。「どうぞ」と言いながら、自分の顔が赤くなってくるのが分かった。チャンスなのにドキドキして横なんか見られない。もうこれだけでもいいかもなんて思ってしまうのだ。

「祈りの果て」

11/14/2025, 5:57:07 AM